皇族方のお歌を添削、指南した「現代短歌界の巨人」

 皇室の真の姿を、外の世界へ伝えようとしたのが織田さんならば、皇室が受け継いできた雅な伝統文化の継承に力を尽くしてきたのが、歌人の篠弘(しの ひろし)さんだ。

 短歌結社「まひる野」の代表を務め、2018年からは宮内庁御用掛として、皇族方のお歌の指南を行っていたが、年も押し詰まった12月12日、多臓器不全で逝去された。享年89歳であった。

 筆者は、拙書『佳子さまの素顔~可憐なるプリンセスの知られざるエピソード~』を執筆する際、篠さんのご自宅を訪れ、お歌にまつわる佳子さまをはじめ皇室の方々の逸話を取材した。

 お歌に着目したことには理由があった。それは皇室の方々がいま何を考え、どのような感性をお持ちなのか、それを知る術は、記者会見でのお言葉や文書回答での文言に限られている。加えて、年初に行われる「歌会始の儀」で発表されるお歌もまた、お人柄を拝察することができる貴重な手がかりだと感じたからだ。

 そうした取材意図を伝えたところ、篠さんは快く応じてくれたのである。現代短歌界の巨人として名を著していた方であったが、尊大なところは微塵もなく、柔和な笑顔を絶やさず、しかも、これまで添削した佳子さまのお歌、十首ほどを事前に用意してくださっていた。

 篠さんが宮内庁御用掛になって最初に秋篠宮邸に伺った時は、秋篠宮ご夫妻と眞子さまと篠さん4人で、今後どのような方針で短歌を作られるのかお話ししたという。

 あいにくその時は、佳子さまはイギリス留学中で日本にいらっしゃらなかったが、しばらくぶりに秋篠宮邸に伺った時には、タイミング良く佳子さまもおられた。佳子さまが顔を出し、「下手ですけれど、どうぞよろしくお願いします」と、挨拶をされたという。

 そんな佳子さまのお歌の中で、篠さんが「良いお歌、傑作と言っても良いほど」と、感心していたのが、2019年の「歌会始の儀」に出された作品だ。お題は「光」。

「訪れし冬のリーズの雲光り 思ひ出さるる ふるさとの空」

 篠さんは、「留学した異国の地で、ふと寂しさや孤独感を感じる時、家族がいる空を思い出して慰めとしている様子が窺えます。佳子さまのお歌には、家族愛が一貫しています」と、佳子さまのこれからに大きな期待を寄せていた。

 取材の機会を得て以後、天皇陛下や皇后雅子さま、そして秋篠宮家の皆さまのお歌について、篠さんから幾度となく教えを受けてきた。お話を聞くたびに短歌の魅力に触れ、その中に詠みこまれた、それぞれの心象風景を分析する楽しさも知ることができたのである。