生活困窮者をいかに支援するかという点が問題になっているが、そのベースとなるべき生活困窮者自立支援制度の存在が社会に認知されているとは言えない(写真:つのだよしお/アフロ)

 制度の発足から7年を迎えた生活困窮者自立支援制度。自治体によって活用に濃淡はあるが、生活保護と異なり、支援の対象を限定しない同制度が、じわじわと増える困窮者の下支えになっているのは間違いない。

 それでも、7年も経てば制度にまつわる様々な課題が表に出る。そのため、厚生労働省は今年6月から、社会保障審議会(生活困窮者自立支援及び生活保護部会)で見直しに向けた議論を進めている。

 日本全体が低成長に陥る中で、生活困窮者を社会全体でどのように支えればいいのか。そして、生活困窮者自立支援制度はどうあるべきなのか──。社会保障審議会の委員を務める生水裕美氏(元滋賀県野洲市市民部次長、一般社団法人いのち支える自殺対策推進センター地域連携推進部 地域支援室長)と、神奈川県座間市生活援護課で独自の支援体制を構築した林星一氏(現福祉部参事兼福祉事務所長兼福祉長寿課長)が激論を交わした。(聞き手:篠原匡、編集者、ジャーナリスト)

審議会委員が衝撃を受けた女性モデルの一言

──現在、社会保障審議会で生活困窮者自立支援制度と生活保護制度の見直しに向けた議論が進んでおりますが、現状、どのような論点が浮上しているのでしょうか。

生水裕美氏(以下、生水):その内容については後ほどお話ししますが、その前に今日、どうしても言いたいことがあって。

──ぜひお願いします。

生水:8月24日に開催された会合で、児童養護施設などを出た若者の居場所等の活動に取り組まれているモデルの田中れいかさんが参考人として登壇されました。田中さんご自身、社会的養護の下で育ったという背景をお持ちです。

 その時に、田中さんがこう言いはったんです。「(生活困窮者自立支援制度については)全く知らなかった。こんなものがあったんだ。日本はすごいと思ったぐらいのテンションだった」と。

 この言葉に、委員のみんなが衝撃を受けてね。

 生活困窮者自立支援制度は平成27(2015)年4月に始まり、既に7年が経過しています。それなのに、実際に支援に関わる方に制度の存在が届いていなかった。これは、本当に衝撃的でした。

 その時に、同じ委員を務める認定NPO法人抱樸(ほうぼく)の奥田知志理事長が、「困窮制度は山の上のそば屋ではないか」と言われたんですね。いくらおいしいそばを用意しても、その存在が知られていない。いくらおいしくても、遠ければ食べてもらえないんだ、と。

 制度改正について議論しているのに、そもそも制度が知られていないという衝撃。制度自体をどうしていくかという論点はもちろん重要ですが、「全く知られていない」という課題をどうしていくのかというのはとても大事な論点です。

社会保障審議会の委員を務める生水(しょうず)裕美氏
神奈川県座間市生活援護課で独自の支援体制を構築した林星一氏