リモートと出社のハイブリッド化が進む今、企業はどこでも等しく仕事ができる環境を整えなければならない。しかし、それは簡単ではない。例えばオフィスの固定電話 がテレワークの妨げになることもある。特に中堅・中小企業は思い当たる悩みだろう。

 こういった課題を解決しようと、このたび、東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)とシスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)がパートナーシップを組んだ。本記事では、NTT東日本 ビジネス開発本部長の加藤成晴氏と、シスコ 代表執行役員社長の中川いち朗氏が対談。両社のパートナーシップの中身と、それにより目指す社会について意見を交わした。

ハイブリッドワークで新たな課題。無視できない「固定電話」の役割

 テレワークが普及し、さまざまな場所で働くハードルは極めて低くなった。その結果、多くの企業でオフィスワークとテレワークが混在する「ハイブリッドワーク」が一般化している。

 しかし、ハイブリッドワークによって新たなコミュニケーションの課題も浮き彫りになってきた。NTT東日本の加藤氏が説明する。

「代表的な課題が、オフィスの固定電話の対応です。出社する人が減る中、会社の代表番号や営業窓口の番号など、固定電話にかかってきた着信に誰が対応するのか。電話対応のためだけに交代制で誰かが出社するといった状況も生まれています。これでは、テレワークが真の意味で全体最適になりません」

 携帯電話が普及した現代だが、固定電話の役割はいまだ重要だ。例えば企業からの連絡が携帯電話の番号で来れば、不信感を抱く人も少なくない。

 シスコの中川氏も、固定電話は現在も無視できない企業の重要な資産だと考える。

「さまざまな企業の方と話す中で感じるのは、今も電話が最も親近感のあるツールだと考える方は多いということです。特に、地方の中堅・中小企業では顕著ではないでしょうか。つまり、固定電話が顧客との関係を左右する可能性があるのです」

 日本企業の99%は中堅・中小企業だ。その中には、「ITは苦手、重要な連絡は電話で」という人も少なくないだろう。中川氏は「そういった考えの方を排除するのではなく、最新の技術でバックアップしたい」という。

「私たちは固定電話の機能をクラウドに移すことにより、どこからでも使えるようにして、さらに質の高いハイブリッドワークを実現したいのです」(中川氏)

2氏が考える「サービス提供だけは十分ではない」という意味

 こういった考えから、NTT東日本とシスコは解決手段を提供し続けてきた。NTT東日本の「ひかりクラウド電話」や、シスコの「Webex by Cisco」などがその代表である。

【ひかりクラウド電話】
固定電話の電話番号でスマートフォンなどから発着信ができるサービス。テレワーク中や外出先でも、パソコンやスマートフォンからオフィスの固定電話番号で発着信することが可能。

【Webex by Cisco】
通話「Webex Calling」やオンライン会議「Webex Meetings」などのコラボレーション機能をそろえた統合コミュニケーション基盤。「Webex Calling」は、スマートフォンやパソコンをはじめ、様々な対応端末にインストールしたアプリを利用して、いつでも、どこからでも、会社の固定電話番号を使った通話ができる。Webex主要3製品「Webex Meetings」「Webex Calling」「Webex Messaging」は、金融情報システムセンター(FISC)の定める安全基準に準拠。

 これらのサービスがあれば、わざわざ固定電話のためだけに出社するといった課題は解決できる。だが2氏は、このサービスを提供するだけでは十分ではないと考えている。加藤氏がその意味を語る。

東日本電信電話株式会社 ビジネス開発本部長 加藤成晴氏

「特に中堅・中小企業は、限られた人員で経営しています。固定電話をクラウド化するツールを提供しても、その設定や管理を企業が自前で行うには、リソースの問題が出てくるのです」

 中川氏も、この考えに賛同する。

「高度な技術になるほど、設定の複雑さやセキュリティ対応が必要になってきます。その全てをIT専門家でもない限られた社員で行うのは簡単ではありません。また、固定電話は長年慣れ親しんできたものだけに、『会社の電話はこういうもの』という既成概念もあり、新しい機能や活用方法があることを知らない場合も多いのです」

 固定電話の課題を解決するツールがありながらも、導入できていない現状。その裏には、中堅・中小企業の人材不足や、情報が伝わっていないという課題がある。ここまでを解決しなければ、本当の支援にならない。

 そこで生まれたのが、今回のNTT東日本とシスコのパートナーシップである。

【NTT東日本とシスコのパートナーシップ】
NTT東日本が、「Webex Calling」および、オンライン会議ツールとして世界中で高い評価を受けている「Webex Meetings」 / 会議専用ビデオ端末「Webex Devices」の取り扱い、導入支援を行うことを発表。例えば「ひかりクラウド電話 for Webex Calling」では、「Webex Calling」から固定電話の電話番号で発着信ができる。

 今回のパートナーシップでは、Webexの主要サービスをNTT東日本のサービスとパッケージで提供するとともに、サービスの導入や運用、問い合わせ対応等をNTT東日本が実施する。

「つまり、NTT東日本がお客さま企業のIT部門に成り代わって、導入や運用、管理を支援するのです。お客さま企業は、なにかお困りの点があれば、NTT東日本の窓口にご連絡して頂く。お客さまに近い存在として寄り添うことが可能です」(加藤氏)

 導入企業からすれば、専門家が傍に居るような体制をとれる。先述した中堅・中小企業の人材不足。あるいは情報不足を補う形といえるだろう。

日本全体のDXには「NTT東日本の存在が欠かせなかった」

 両社のパートナーシップは今回が初めてではなく、長い間さまざまな形で連携してきた。たとえば、NTT東日本の法人向けサービス「ギガらくWi-Fi」や「ギガらくVPN」などにも、シスコのソリューションが採用されている。

 では、NTT東日本から見て、シスコと組む理由はどんなところにあるのか。加藤氏がまず挙げるのは「製品の完成度の高さ」だ。さらに、シスコがグローバルに事業を展開していることも、NTT東日本にとって価値になるという。加藤氏が説明する。

「シスコ は世界中の最先端の情報や事例を数多く持っています。例えば北米の通信キャリアがどのようにお客さまをフォローしているか、など。そういった情報に触れられるのは大きなメリットです」

 シスコの製品を見ていくと、「必ずしも日本では頻繁に使われていない機能もあります」と加藤氏。しかし、その機能は、グローバルのどこかでニーズがあるから存在している。これが発見になる。また、数年たってからその使われていなかった機能の必要性を感じることもあったという。つまり、世界のどこかで生まれていたニーズが、やがて日本でも芽生えたのである。

「世界の最先端が常に反映されているところに、グローバル企業であるシスコの強みを感じます」と加藤氏は話す。

 一方、シスコがNTT東日本と連携する意義について、中川氏はこう語る。

シスコシステムズ合同会社 代表執行役員社長 中川いち朗氏

「私たちが取り組みたいのは、日本企業や日本社会全体のDXです。ただし、シスコ単独で推進することはできません。日本は99%が中堅・中小企業であり、かつハイクオリティを求める市場で、グローバルでも特殊なマーケットです。だからこそ、中堅・中小企業への広範な営業網と信頼関係を持つ、NTT東日本のネットワークやアセットが大きな価値となります」

デジタルによる「全ての人にインクルーシブな社会」を目指して

 こういった話を踏まえて、2社が見据えるのは、デジタルの力で中堅・中小企業を支えること。それにより日本社会を変革することだ。

 加藤氏は、NTT東日本としての思いをこう語る。

「NTT東日本は、NTTグループの中の“地域通信会社”というカテゴリです。つまり、向き合っているのは地域そのものです。今後、人口減少が進めば地域社会も厳しい局面がくるでしょう。その中でどうするか。地域社会のほとんどは中堅・中小企業であり、その企業が直面する課題を解決することが地域を元気にするでしょう」

 地域の企業がまず直面する課題は人材不足だ。加藤氏は「ICTをはじめ、私たちの強みを組み合わせて生産性を上げ、人材不足の解消に寄与したいのです」と話す。

 一方、シスコが掲げるパーパス(存在意義)は「全ての人にインクルーシブな未来を実現する」ことだという。

「誰もが分け隔てなく受け入れられ、同じサービスを受けられる社会をデジタルで実現したいのです。地方にいようと東京にいようと、どんな立場にあろうとも同じサービスを受けられる。それが私たちの目指す社会です」

 しかし、日本を見ると「まだその社会は実現できていません。むしろ、コロナ禍で、グローバルと比べて後れていることが露呈してしまった」と中川氏。特に地方はIT活用が進んでいない現状があるという。実際、政府もその課題を認識しデジタル庁を創設した。

「シスコジャパンは今年で創立30年なのですが、インターネットが商用で利用されるようになって30年、時代はまさにコロナという人類最大の危機を乗り越えて新しい時代が始まろうとしています。デジタルにおけるインクルーシブな社会を実現するには、今が勝負です。その変革の鍵は99%の中堅・中小企業のDX。NTT東日本 とのパートナーシップのもと、日本のDXを加速していきたいと思います」

 今回の連携は、サービスの価値を高めるだけが狙いではない。その裏には、デジタルの課題を抱える地域や企業を支援し、分け隔てない社会を築きたいという強い思いがある。
 

【関連リンクはこちら】
NTT東日本 プレスリリース
シスコ プレスリリース
ひかりクラウド電話 (NTT東日本)
Webex Calling特設サイト(シスコ)

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