タジク人もハザラ人もウズベク人も「アッラー・アクバル」で連帯

 ペシャワルから西へ飛行機で2時間弱の距離にあるパキスタン西部の都市クエッタに着いた。やはりアフガニスタンとの国境の町であるクエッタには、ペシャワルよりもさらに濃厚なイスラムの風が吹いていた。

「ハイヤー、アラサラー!」

 眼を覚ませ、礼拝に来たれ! 高らかで間延びしたアザーン(礼拝の時を告げる呼びかけ)の声が、霞んだ山々の谷あいにこだまを呼び、町へ降りて来る。そして大通りを走り抜け、生臭いバザールの隅々を這いまわっていく。

 パシュトゥン人、タジク人、ハザラ人、ウズベク人・・・町ではそれぞれの民族が個性を主張し合っている。しかし、人々の心は「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」の一句で繋がっていた。彼らはイスラムの教えに厳格な自分達こそが“イスラムの源流”なのだと自負している。大河の流れは下流に行くほど濁るのだ、とも。

 町はずれの広場での集会、一人のイマームが壇上から檄を飛ばした。

「今、アメリカは我々の兄弟達の頭の上に爆弾を落としている。しかし恐れる事はない。武器を手に山を越えるのだ。さすればアメリカは地獄の炎で焼かれるであろう」

 中年のイマームが近寄って来て言った。

「ビン・ラディンはアメリカを攻撃することで、世界をムスリム対非ムスリムの全面対決にもっていこうとしている。彼は偉大なるジハードの口火を切ったのだ」

アメリカへのジハードを訴えるクエッタのタリバン(写真:橋本 昇)
拡大画像表示

 その時、会場でひと悶着があった。集会を取材しようとした白人女性ジャーナリストが会場から追い出されたのだ。

「あの女はヘジャブも被らずに何ら慎みもない」

 と、タリバン兵士と思われる男がこちらを向いて言った。

 こういう所に違和感を覚えるは確かだ。タリバンの政治は我々の側から見ると、あまりにも旧時代的で抑圧的な人権無視の政治のようにも思える。女性の権利の剥奪、全ての娯楽の禁止、また、対立する民族の虐殺。ここの人たちはこれらをどう思っているのだろうか? 話を聞いたタリバン支持者達はこう答えていた。

「彼らは堕落した国をイスラム国家の本来あるべき姿に戻そうとした。タリバンはアフガニスタンに平和をもたらしたのだ。アメリカは自分達に都合のいいような嘘をばら撒いている。タリバンは女性を大切にするし、罪のない人を殺したりはしない」

 写真を撮っていると突然、通訳のイジュラールが耳元で囁いた。

「あいつらはアルカイダのメンバーだよ」

 見るとものものしいガードに囲まれて2人の男が出て来た。覆面の下のキラリと光る眼が辺りを威嚇している。男はビン・ラディンを讃える短い演説をし、また何処かへ消え去った。

突然現れたアルカイダのメンバーと思われる男たち(写真:橋本 昇)
拡大画像表示