平壌の街並み(写真:AP/アフロ)

 北朝鮮で最近、特に奨励されているのは観光産業だ。新型コロナによってしばし「息絶えた産業」になってはいるが、国連の制裁を受ける北朝鮮にとって、観光産業は干天の慈雨のような「オアシス産業」である。現に、遊覧飛行という独特の観光商品を作るため、北朝鮮は2015年、平壌の上空を開放した。美林航空倶楽部である。

「革命の首脳部」(金正恩のこと)を死守すべき北朝鮮で、金正恩(キム・ジョンウン)の執務室が見下ろせる平壌(ピョンヤン)の上空を一部であれ開放するとは、驚天動地の大事件だ。北朝鮮はなぜ平壌上空を開放したのか。「革命の首都」と呼ばれる平壌の空を開放した主人公は誰なのか。平壌上空開放という奇想天外な事実の裏側を話そう。時計の針を8年前に戻す。

「平壌観光はつまらない」という中国人の話が始まり

「何だって? 平壌上空を開放しろだと?」

「ああ、平壌の空を開放できれば、投資誘致の提案を受け入れられるよ、韓京殖君!」

「正気かよ、ダンウェイ!もし君が同じ立場なら北京の空を開放できるっていうのか」

「そりゃ無理だよ。だって北京はカネに困ってないからね。でも平壌は違う。困ってるだろ、めちゃくちゃ」

 韓京殖(ハン・ギョンシク)は言葉を失った。いくら北京大学の同級生であり友達であっても、こんなに堂々と北朝鮮を見下すなんて、不愉快極まりない。さらに腹が立つのは、ダンウェイの言葉を否定できないことだった。韓京殖は北朝鮮観光総局の責任部員として投資誘致のために、ダンウェイは中国の優良企業の代表として投資のためにここに来ていた。

「で、平壌の空を開放して何をする気だ?」

「航空ツアーだよ。ヘリコプターとか軽飛行機とかに人を乗せて、平壌上空をぐるっと一周するんだ」

「そんなこと、できると思うか?」

「世の中に不可能はないだろ。はっきり言って、北朝鮮観光は面白くない。閉鎖的な国だから、みんな好奇心で一度は行くけど、二度は行かない。見るものも、遊ぶものも、カネを使う所もないからね」

 その通りだった。これまでに北朝鮮を訪れた観光客の感想は、「北朝鮮観光は徹底的に統制されている。観光なのに、行きたい所へも自由に行けず、食べたいものも好きなように食べられない。一方的に決められたガイドラインに沿ってしか動けないのなら、北朝鮮なんて二度と行きたくない」という内容だった。

「平壌の上空さえ開放できるなら、朝鮮観光総局が望むだけの金融投資をうちのグループで出せるよ。どうだい?」