11月10日、サウジアラビアからインドネシアに到着し、出迎えた支持者らの熱狂的歓迎に応えるリジック氏(写真:AP/アフロ)

(PanAsiaNews:大塚 智彦)

 インドネシアのイスラム急進派として知られる「イスラム擁護戦線(FPI)」の指導者でカリスマ的人気を誇るハビブ・リジック・シハブ氏が11月10日、事実上の亡命先だったサウジアラビアから3年7カ月ぶりに母国インドネシアに帰国した。

 リジック氏は国家警察から名誉棄損罪やわいせつ罪など複数の容疑で手配されていた2017年4月にサウジアラビアに突然出国して、現地で事実上の亡命生活を送っていた。この間に治安当局者や政治家などがサウジアラビアを訪問してリジック氏と会談する様子がインドネシアのマスコミで何度も報じられたものの、誰一人として「容疑者」であるリジック氏の帰国を促すことはなかった。

 このためリジック氏と治安当局の間で何らかの暗黙の了解があるとの見方が強まっていた。

 その見方を裏付けるかのように、2018年6月にはリジック氏の捜査を行っていた警察は捜査中断を明らかにした。その理由は「証拠不十分」というもの。この判断の裏には何らかの司法上の取引があったと現在も言われ続けている。

 リジック氏の帰国は今後インドネシア社会の不安を一層高める可能性が高い。インドネシアではコロナ禍による失業者や生活困窮者の増大からデモや集会などが一時頻発するなど社会情勢が不安定化しつつある。そうした中で、リジック氏の帰国は新たな火種となりそうなのだ。

帰国の出迎えだけで空港大混乱

 リジック氏が帰国した10日午前10時、ジャカルタ郊外のスカルノハッタ国際空港周辺に、シンボルの白い装束に身を固めたFPIのメンバーや支持者など数万人もの人々が参集した。もちろんリジック氏を出迎えるためだ。

 このため前日の9日夜から空港へ向かう高速道路や一般道は大渋滞となり、国内線や国際線に搭乗予定の多数の搭乗客が離陸時間に間に合わず、各航空会社も出発を遅らせるなど、計118路線の便に大きな混乱が生じたと地元マスコミは伝えた。

 支持者らはジャカルタ市内中心部タナ・アバンにあるリジック氏の自宅周辺にも押しかけ、同じように周辺の交通をマヒさせた。この事態は、同氏の人気が依然として高いことを示している。