(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)
文在寅大統領は、昨年の年頭記者会見でNHKの高野洋ソウル支局長の質問に対して、「日本は歴史問題で謙虚になるべき」と語った。
「謙虚」とはどういう意味か。私の解釈では、「歴史認識については韓国に正義がある。韓国は正しい、日本は誤っている。したがって日本は韓国の主張を受け入れるべきだ」ということであろう。
また、昨年の大統領就任2周年に際し、進歩系元老を青瓦台に招いての政策評価で、ある元老が「日韓関係を改善しなければならないのでは」と述べたのに対し、「日本は歴史問題を政治利用している」と述べた由である。その元老はさすがにあきれ返り、後に周囲に「政治利用しているのはどちらか」と述べたようである。
真実を求めていない韓国の歴史研究
韓国で歴史とは何か。日韓歴史共同研究に参加していた日本人の学者によれば、日本側から歴史の事実を指摘し、韓国側の考えを問うたところ、「あなたは韓国を愛していないのか」という反応があったという。その学者によれば、韓国における歴史研究は、歴史の事実を積み上げて、真実を追求するのではなく、そもそも期待する歴史認識が前提にあり、それを何とか説明するために、断片的な歴史の事実を探し求めることであるという。
日韓でいくら歴史共同研究を行っても成果が乏しいのはこうした背景がある。ヨーロッパで歴史共同研究が成果を上げた背景には、国民感情をいったん排除し、客観的に歴史を見ようとの了解があったからであると聞く。歴史共同研究に出てくる韓国の学者は、韓国の国民感情を背負って出てくる。これでは歴史認識で歩み寄れるはずはない。