East Riverを走るフェリーから見たニューヨーク大学医学部のキャンパス。右端にEmpire State Building。ⒸS.Koide

 連載「ニューノーマル時代の大学」の第8回。春から夏までの数カ月間、大学はほぼリモート教育に切り替わり、教師と学生はパソコンやスマホを介して向き合うようになった。専修大学商学部の渡邊隆彦准教授が大学の教育現場最前線から、学生、教師、事務職員を含む、ヒトと大学との新しい関係を解き明かす。 リモート授業によって可視化した「授業の質」や「学生の意識」の問題とは? 米英の大学人と渡邊准教授の鼎談後編をお届けする。(筆者/渡邊 隆彦、構成/鍋田 吉郎)

 米英の大学では、コロナ禍における授業のリモート化でどのような苦労があったのか――前回はニューヨーク大学の小出昌平氏、ロンドン大学の成田かりん氏に、おもに情報通信インフラなどハード面での苦労を伺いました(第7回参照)。

 しかし、リモート授業で可視化した問題はハード面だけではありません。今回は授業の質(=教員の質)、学生のマインドセッティング(心構え、価値観)をテーマにおふたりと意見を交換し、今後の大学像に迫りたいと思います。

●小出昌平 (こいで・しょうへい):ニューヨーク大学医学部生物化学分子薬理学科教授。パールムターがんセンターのコアメンバーでもある。

●成田かりん(なりた・かりん):ロンドン大学クイーン・メリー校政治学博士後期課程・指導助手。

左から小出教授、成田氏、渡邊准教授

学生に評価される米英の大学の授業

渡邊 春学期が終わって、日本の学生はリモート授業に対して大きく2つの不満を抱いたようです。

(1)一部授業の質の低さ

(2)課題の多さ

 この2つです。(1)についてとくに槍玉にあがったのは、「今日は教科書の○ページを読んでください」とだけ指示し、あとは課題レポートを要求する授業や、90分授業なのに30分程度の動画を配信するだけの授業などです。ビフォー・コロナにも手抜き授業はあったと思いますが、対面授業ではその場の勢いでごまかせていたのかもしれません。しかし、リモート授業が始まって、手抜きが可視化してしまいました。一方で、凝った工夫をして評判のいい授業もあります。日本では授業のリモート化によって、授業の質の二極化がより進んだのかもしれませんが、このあたりについてアメリカやイギリスではどのような状況でしょうか?

小出 そもそもの前提としてコロナ以前から学期末にエバリュエーション(事後評価。オンライン・無記名で学生が授業を評価する)があり、このシステムが授業の質の維持・向上に効いていました。