国内ネット世論の動向に窺うところ日本でも流行を始める一歩手前に来ていただろうに、大手メディアがごく一部を除くと全く触れないうち、この言葉は勢いを失いそうだ。
ヒラリー・クリントン米国務長官が見せ大方を驚かせた対日重視策と、今後見せるだろう対中慎重姿勢に照らすなら、「チャイメリカ」という言葉がこの先日本の新語辞典に入るところまでいくかどうか、まず微妙な線だ。米中接近を象徴するような意味を感じさせるのがこの言葉だからである。
ただし造語主の意図は、少し別な文脈から出ていた。
Chimerica――。そういう名前の国があると仮定する。すると、超過剰貯蓄と超過剰消費のグローバル・インバランスは、とたんにサステイナブル(持続可能)に見えてくるという、そんな説が近年出ていた。
「コナンドラム」はにわかに消える?
仮想国家チャイメリカは東西に分かれ、対極的な特色をもつ。
東チャイメリカでは、もっぱらモノづくり。貯蓄率が極めて高く域外に資本輸出せざるを得ない。
西チャイメリカはその反対である。稼ぐよりはるかに多くを使う浪費家で、いつも金繰りに困っている。しかしそこは、何せ同じ国の国内問題だからローリスクだとして、東チャイメリカが喜んで資金を融通する。それでチャイメリカの帳尻は、全体としてうまく合う。
ここで言う東・・・が中国、西・・・が米国を指すのは言うまでもない。
アメリカとチャイナ、別々の国に分かれていると思うからこそ、その間のマネーフローが持続可能かどうか、とかくの議論になる。北京が米ドル債を投げ売りしたら、など、ありそうにないシナリオに怯える。
米国長期金利が趨勢的に低下し続けた理由についても、これを「謎、難問(conundrum)」と呼んだアラン・グリーンスパンと同様、首をひねらなくてはならない。
いっそ米中を一体の存在、分かれようとして分かれられないひとつの国――チャイメリカと考えたらどうか。そう言い出したのは英国人の歴史家、ニアル・ファーガソン(正確には彼Niall Fergusonと Moritz Schularick)である。
歴史家がなんで、と思われたとしたら、この人は戦争の歴史を書いたと思ったら金融の歴史も書き、どれも面白いというので人気の売れっ子、オールラウンド作家である。
ともあれ巨大な資金フローと、そのもたらす国債利回りの低下という現象に対し、米中が事実上の一体、「チャイメリカ」なのだと考えれば理屈がたつというわけだった。
最近のものでは、フランシス・フクヤマが切り回す雑誌The American Interestの本年1・2月号で、ファーガソンがチャイメリカについて書いた記事を読むことができる。