およそ35年前に中国に導入された「一人っ子政策」は人口増加の抑制に一定の効果を発揮したが、負の一面も露呈している。

 中国の伝統的な家庭なら、子供が何人もいる大家族で共同生活をし、互いに助け合う仕組みだった。大家族制の下で公的な介護制度などはほとんど必要なく、家族の構成員が助け合うことになっていた。

 だが、近代になってから、伝統的な大家族制が徐々に崩れ、今となって都市部では核家族化している。とりわけ一人っ子政策により、ほとんどは3人家族になっている。

中国人が唯一期待を寄せるのは我が子

 日本では、人口減少と少子高齢化は景気低迷とデフレの一因と指摘されている。一方、中国では、一般国民のレベルでは、少子高齢化の弊害はまだ明確に意識されていない。特に経済への影響はまだ出ていないと思われている。今の中国経済は昭和40年ごろの日本の高度成長期に類似しており、国民の気持ちは依然として高揚している。

 都市部の住民が多少なりとも心配しているのは、自らの老後をどのように過ごすかである。この点は日本社会と若干異なる部分があり、まず指摘しておきたい。

 日本では、国民全員の老後が公的な社会保障制度によって保護されることが、政府と国民の間での約束事になっている(ただし、「宙に浮いた年金」が明るみに出てから、将来への不安が高まっている)。

 それに対して、中国政府は国民に対してほとんど約束をしていない。少なくとも国民は、将来、政府や公的社会保障制度によって保障されることは、あまり期待していないはずである。ある程度期待しているとすれば、自らが勤めた「単位」(政府機関、団体と企業)が面倒を見てくれるであろうということだ。しかし、こうした期待はそれほど強くない。

 それと同時に、もう1つの国民心理として、将来の生活に不安があるが「自分だけではない。みんながやっていけるなら、自分も何とかできるのではないか」と思う都市部の住民が少なくない。