おれの住んでいる墨田区は太平洋戦争の空襲で一面、焼け野原になった。おれの親父は財産のほとんどを失った。でも、女房と子どもがいたから立ち上がって前に進むしかなかった。

 夢を実現させるために人々は働いた。以前、本にも書いたけど、「モーレツ、気合い、根性、根気、勤勉」っていう日本人の働きぶりや価値観は、「豊かになりたい」「夢を実現させたい」という原動力から生まれたんだよ。

 そして、みんな生きるのに必死な状況の中で、社会には秩序があった。困っている人がいれば手をさしのべて、温かい人情が通い合った。日本人は困難な状況におちいると相互扶助の精神が強くなるとともに、道徳的に目覚めるんだ。

震災が呼び覚ました相互扶助の精神

 うちは家族旅行も社員旅行も、秋田、岩手、福島とか東北方面ばかりだ。海は湘南なんて洒落たところは好きじゃないね。海っていったら、千葉と茨城が専門だよ。箱根より西は人が意地の悪いのが多いから、よほど用事がないと行かないんだ(これ、冗談だよ)。

 そんなわけでおれには東北の友人も多い。彼らの心境を察すると、今回の大震災は本当に言葉が出ないし、いたたまれない気持ちだ。

 だけど、大震災が多くの日本人の心に、忘れかけていた扶助の火を点したのは確かだろう。

 これは東北の人たちならではの美徳なのかもしれないが、被災者でありながらも忍耐強く、冷静に譲り合い、助け合っている。その姿が世界中に発信され、日本人の評価が上がっているそうだ。

 一方で、ある民放テレビ局の首相会見中継のさなか、番組スタッフと思われる男女が小声で「また原発かよ」「あー、笑えてきた」なんて話している声が全国に流れたらしいが、嫌な話だね。

 バッファローは猛獣に襲われると霧散して逃げるけど、その後、群れをつくって態勢を立て直して仕返しするんだよ。野生動物にも、仲間意識や相互扶助ってのが存在しているんだ。

 けれどもその番組スタッフは、被災者のことなんて頭にないんだな。畜生以下の精神のやつらが番組をつくって全国に放映してたってことだろ。