男に連れられて、舗装されていない小道を歩き続ける。見渡す限りの野山と河川。素直に自然の恵みを楽しむ気にはなれない。左手は国境だ。中朝関係の現場に、自分はいる。ずっとこの瞬間を待ち望んできた。興奮しないと言えば、嘘になる。
歩くことが大好きな国境人
基本的には河が国境になっているようだ。陸続きの場所もあったが、どこまでが中国で、どこからが北朝鮮なのか、明確でない情景にも遭遇した。
「こんなラインなくなってしまえばいいのにね。別に誰が得するわけでもないんだから。人間ってのは、どうしてこうも自分を守りたがるのかねえ」
筆者と男の少し後ろを歩いていたキムさんの漏らす声が耳に入ってきた。私たち2人は特に反応しなかった。
押し黙ったまま2時間ほど歩いた。「国境人」は徒歩が好きなのか。とにかくやたら歩く。情勢をウォッチしながら進んでいるようで、何も考えず、ただ暇つぶしに時間だけが過ぎていくようにも感じる。筆者にはよく分からない。歩くことが嫌いでなくてよかった。
中朝国境の旅を通じて1000キロ近い距離を歩くことになるが、国境を越えたことは一度もない。率直に言うと、1メートル手前くらいまで接近したことは数え切れないほどあった。
国境につき物の緑色の大型車
向こう側で遊ぶ子供たちと笑顔をかわしたり、声をかけたりした。軍人に睨まれ、銃を向けられたこともあった。
しかし、国境は一度も越えなかった。国境ウォッチにおける最低限の礼儀というか、マナーだと思った。人一倍に神経をすり減らしながら、果てしなく伸びる国境線を行ったつもりだ。
中国側で、緑色をした「野戦部隊」の大型車がしばしば通りかかる。そのたびに土埃が舞い上がり、道路がガタガタ揺れる。国境都市、しかも脱北者問題などで常に敏感な状態にある北朝鮮に面しているだけに、軍事的な色彩が濃い。
短めに見積もって30分に1回は目にする。車の中には、同じく緑色の軍服を着た若い軍人が数人ずつ乗車していた。声をかけられたり、脅かされたりすることはない。国境ならではの雰囲気を醸し出しているだけだ。