キムさんに連れられて延辺朝鮮自治州の中心地、この旅の最初に筆者が飛行機から降り立った延吉市を目指した。2日かけて40キロくらい歩き続けた。
盗聴を避け、暗号でこそこそ通話
中朝国境はいつになく静けさに包まれていた。3月と言えば春の息吹きを感じる季節だが、寒かった。
河を隔てて近すぎる両岸の関係が、筆者をより肌寒く蝕んだ。
キムさんは恐らく800元くらい(約1万円)のノキアの携帯電話を頻繁にポケットから取り出し、朝鮮語で会話をしていた。
筆者に聞き取れるフレーズは相変わらず限られていた。
意思を明確に伝えるというよりも、何かコソコソと暗号で意思疎通を図るようなコミュニケーション法だった。
中国も事情は同じ、固有名詞は使わない
「北サイドと連絡を取り合っているんですか? 盗聴されているんですね。キムさんも大変だ」
キムさんが少しだけ笑った。
「はは、加藤さん、さすがだね。よくご存じだ」
筆者も呼応するように、少しだけの笑顔で返した。
「お気持ち、よく分かりますよ。私も日頃、北京では慎重に慎重を重ねて電話を使います。固有名詞は絶対に言わない。代名詞を多用し、間合いと相手の吐息で意味を判断する。そうですよね?」