例えば野口英世(1876-1928)は黄熱病の原因となる細菌を発見したと発表しましたが、これは誤りでした。黄熱病はウイルスによって引き起こされる感染症です。(現在では、野口の華々しい「成果」はほとんどが誤りであったと判明しています。野口英世の「成果」についてはいずれ稿を改めて紹介したいです。)

 もしも当時の研究者が光学顕微鏡の限界を超える新しい原理の顕微鏡を手にしていたら、ウイルスを発見できたかもしれません。それは多くのウイルス感染症の治療を助けたでしょう。

 こういう事情は医療科学だけでなくどの分野でも同様で、ウイルスやタンパク質や分子や原子までも観察できる顕微鏡は、20世紀初頭の研究者の夢でした。あらゆる研究分野に革命を起こすミラクル顕微鏡が待ち望まれていたのです。

じゃあ光を使わない顕微鏡ならいいんじゃね?

 1924年、ルイ・ド=ブロイ(1892-1987)というフランスの研究者が、「電子は波動でもあり、波長を持つ」といういう奇妙なアイディアを発表します。

 当時、原子や電子といったミクロな物体の性質が徐々に明らかになりつつありました。そうしたミクロな物体は、日常のマクロな物理法則とかけ離れた、常識はずれの振る舞いをするのです。

 ド=ブロイの発見もその非常識な法則のひとつで、電子という粒子は、波の性質をも備え、波長や振動数を持つというのです。これを「粒子と波動の二重性」といったりします。

 粒子なのに波動を持つとは、非常識すぎてなんだかさっぱりイメージが浮かびません。他に「いくつもの粒子が同じところを同時に占めることがある」とか、「位置と運動量を同時に精確に決めることはできない」とか、「観測する行為が対象を変化させる」とかいった、なんだかもう常軌を逸した法則を積み重ねて、「量子力学」(の枠組み)が1927年にできあがります。

 ミクロな物体の常軌を逸した振る舞いを、量子力学は正しく予測しました。量子力学はたちまち工業的に応用され商品化され、社会を力一杯支える物理学分野となり、現在に至ります。