「後ろから弾を撃つな」は言論統制では?
――綱領で「勇気を持って自由闊達に真実を語り」と掲げたが、石破さん以外は、誰もものを言えない雰囲気になってしまっているのか。
私はときどき「後ろから弾を撃つな」と党内で批判されます。また、「石破さんね、正しいことを言っていればいいっていうもんじゃないんだ」とよく言われます。でもそれに従ってばかりいたら、言論統制に限りなく近づいていくようで恐ろしい気がするのです。権力を批判する者を「非国民」と言って言論を封殺した戦前と同じような雰囲気になっては絶対にいけないと思います。
金融政策、財政政策、社会保障政策、安全保障政策、さらに憲法についての考え方など、私が安倍総理と違うところはそれなりにあります。ですから私はいろいろな会議で自分の意見を述べるわけですが、私が発言すると、場が静まってしまったりすることがあります。うっかり賛同の意見でも言おうものなら、官邸から圧力がかかるのではないか、と危惧するような雰囲気があるような気がします。
新聞紙面にときどき、「匿名のある自民党閣僚経験者」や「ある自民党代議士」の発言として、「内容としては石破の意見は正しいが」といったコメントが載っていますが、それも同じような危惧によるもののような気がします。
――国民にはそういう自民党の状況はなかなか見えない。むしろ経済的閉塞感が強まり、安全保障の危機が高まっている中で、安倍首相の「強気」の姿勢を好感する国民が多いように感じる。
国民の皆様が支持して下さっているのはありがたいことです。しかしそれに安住せず、我が国の安全保障環境、我が国の経済、本当に良くなっているのか、われわれ与党としても常に検証しなければいけません。
確かにリーマンショックから10年が経ち、今、企業の利益は1.6倍になりました。でもその内容を子細に見ていけば、売上高はほぼ横ばいで推移しています。また労働分配率は43年ぶり低水準と言われていますし、年収186万円以下の人は929万人もいると言われています。
領土問題も、国家の根幹をなす要素の1つですから、慎重な姿勢が求められます。ロシアとの間の懸案である北方四島について、「四島返還」を断念したと報じられました。
そもそも、今の北方四島の現状はどのようにして作られたのでしょうか。ソ連に対日参戦を促してきたアメリカとイギリスが、ソ連に「相互不可侵・戦時中立」を定めた日ソ中立条約の破棄を認め、その代わりに日本が支配している満州の権益、南樺太、千島諸島の領有を認める密約を、ヤルタ会談で交わしていたとされています。
この密約に基づき、ソ連はまだ中立条約の有効期間であるにも関わらず、一方的に中立条約を破棄し、日本がポツダム宣言受諾を連合国側に伝える前日の1945年8月9日に宣戦布告しました。千島列島に攻め込んだのは、日本が無条件降伏をした8月15日以降でした。
そしてサンフランシスコ講和条約では、日本が領有を放棄した「千島列島」の範囲を明記していないにもかかわらず、ソ連はサンフランシスコ条約で北方四島がわが国のものになったと主張したわけです。
日ソ中立条約、ヤルタ協定、ポツダム宣言、サンフランシスコ条約、この4つを国際法的に正しく理解すれば、日本が主張すべき領土が「四島」であるのは当然です。ですから日本は、「ソ連の継承国であるロシアの主張は、国際法的に見て間違いである」と主張しなければなりません。「四島返還断念」などはもちろん安倍総理もまったくお考えになっていないと思いますが、法的根拠を踏まえない交渉だと思わせることのないよう、留意が必要です。
――安倍首相の悲願は憲法改正と言われています。石破さんも憲法改正の必要性を否定していませんが、ここでも意見は違いますか。
憲法は必ず日本国民によって改正しなければならない、そこは同じです。しかし今、現行の憲法第9条に新たに3項を付け加えて、自衛隊の存在を明記する、という案が出されています。「大学教授が自衛隊は憲法違反だ、と言っているのはけしからん。募集に応じない自治体があるのはけしからん、だから憲法改正だ」と。さすがにそれは論理が飛躍しすぎでしょう。
自民党が「条文イメージ」とか「たたき台素案」とか呼んでいる改正案は、「我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」などの条文になっており、安倍総理が「実態は何も変わらないんです、自衛隊の存在を明記するだけです」とおっしゃると、それはかなり違うと言わざるをえません。
私自身は、国民に正直に誠実に真剣に向き合うということを一番の政治信条にしていますし、自民党も本来そうあるべきだと思っています。安倍内閣の姿勢がこれと異なるように感じられるとすれば、とても残念だと思いますし、そうならないように発言し続けているつもりなのです。