プロフェッショナルファームが目指すべき姿

 デジタルテクノロジーの急速な発展やグローバル化の加速により競争原理が変わる中、プロフェッショナルファームのあり方も変化している。1万2,000人を超える日本最大級の総合プロフェッショナルファーム「デロイト トーマツ グループ」は、多様なプロフェッショナルによるグループシナジー最大化に取り組む。目指すべき方向と、そのための挑戦を永田高士グループCEOが語る。

デロイト トーマツ グループ CEO 永田高士

 これまでわれわれプロフェッショナルファームにとっては、情報の非対称性が価値の源泉でした。グローバルレベルの先行事例やベストプラクティスの蓄積があり、それをベンチマーキングしながらビジネスができていたからです。ところが、近年の急速なデジタルテクノロジーの進化とグローバル化の加速によって、この優位性が従来に比べて著しく低下し、過去の成功体験に頼ってばかりいられない状況が現れてきました。

 しかし、こうした外的環境の変化は、チャンスでもあります。われわれは単なるクライアントの相談相手ではなく、企業や社会全体に積極的に働き掛けて変革を促進し、実現まで導く「カタリスト」(触媒)となることを目指しています。デロイト トーマツは経営に関わるあらゆる専門分野を網羅した総合力を有しており、経営者の個別のテーマ領域を超えた複合的な課題への対応力が大きな強みです。日本経済や日本企業が抱える課題が複雑化する現在、この圧倒的な総合力に磨きをかけ、本当の意味での変革を促す存在になりたいと考えています。

多様なプロフェッショナルの知見が集まるプラットフォーム

 そのためには、プロフェッショナルの高次元のシナジーの追求が必要だと考えています。そこで、われわれのグループに集う多様なプロフェッショナルの知見や経験を全体で共有・蓄積し、より高いレベルの洞察や解決策を継続的に創出・発信していくためのグループ共通のプラットフォーム(推進基盤)として、昨年10月に「デロイト トーマツ インスティテュート」(DTI)を創設しました。

 DTIの中核活動の一つが「Thought Leadership」です。世界や日本が直面する課題に対してわれわれの視点を示し、企業、政治・行政のリーダーに向けて積極的に政策提言やアジェンダ・セッティングを展開していきます。第一弾として発表したレポートでは、グローバル化やデジタル化といった世界的な潮流における、日本企業への指針を提言しています。
DTIは単なるシンクタンクではなく、われわれがカタリストとして変化を起こすために、クライアントや社会に対して積極的に働き掛け、実現すべき具体的な変革やインパクトに焦点を当てて、実践的で成果につながる活動を目指しています。例えば、次代を拓くリーダーやリーディングカンパニーが複合的な課題を解決し、必要な変革を推し進めるために、グループ内の多様な専門性を活用した統合的サービスや既存サービスとデジタル技術を融合したソリューションの提供を加速しています。
 
 このために、デジタルを使った業務改革やビジネスモデルの開発などが実体験として試せる、いわゆる実験工房づくりも進めています。AIやアナリティクスなど幅広い技術インフラ機能を備えたラボを、2019年6月開設のCxO向けのイノベーション創発施設「Greenhouse」に併設する予定です。「Greenhouse」でCxOとの対話によって本質的な課題を導き出し、そのうちデジタルテクノロジーの力で解決すべきものは、即座にプロトタイピングを行い、実装にまでつなげます。それ以外の課題への解決策については、われわれのコンサルタント、公認会計士、税理士、弁護士などの専門家が個別ビジネスの枠を超えて連携し、ノウハウを組み合わせて提供していきます。グループ共通のプラットフォームがあるからこそ、このようにCxOの課題の発見から解決策の実装までが一連のプロセスとして実行可能なのです。

テクノロジーが進化する今、本質的な人間の価値が問われている

 DTIを通じて社内のプロフェショナルに向けた次世代人材育成にも注力しています。未来のプロフェッショナルに求められる素養が大きく転換していくことが予想されるからです。
デジタル化が進み、企業データがクラウドベースで共有され、AIやブロックチェーンによる自動化が社会全体で進んでいくと、極端にいえば、自動的に正しい財務諸表ができる時代が来るかもしれません。そうなると、例えば監査という専門性は、その付加価値をどのように発揮するのでしょうか? テクノロジーが大きなファクターとなる時代だからこそ、生身の人間が探求・構想し、判断軸を持つことが必要になってきます。

 例えば、われわれは資本主義の世の中にいます。では資本主義とは何なのか、何のために、誰のために資本主義があるのか――といった探求です。ビジネスでは、株式会社は株主のため、いや従業員も含めたステークホルダーのためといった議論がされますが、より本質的な、何のためにお金もうけをするのか――といったところが大事です。中国や米国の人たちはどう考えるのか。アングロサクソンならば一つの宗教的なバックボーンがあって資本主義が成り立っているのか。それならば日本人はどうか――といった具合に、自分なりに解を導いていくことが大事です。実際、経営者を説得するには、資本主義は何のためにあるのかといった根本的なところにたどり着くことも往々にしてあるのです。

 このように、最後に残される難易度の高い課題を克服するのは人間自身です。その時に問われるのは専門性や知識だけでなく、人柄も含めた一人の人間の総合性です。経営者と対峙する局面では、哲学や文化、社会科学の理解などをベースにした深みと広がりのある知見が必要であり、それを養うのが「リベラルアーツ」(教養)だと私は考えています。

 DTIではリベラルアーツに注視した社内セミナーを開催しています。総合性体現の最たるものは経営です。このため、日本の産業界を代表する経験豊かなリーダーをスピーカーとして招き、自らの経営哲学や企業経営の実体験、これからの激動の時代にどう進むべきかを、自由に語っていただいています。誰でも参加できるオープンなセッションであり、会場から人が溢れるほどの盛況ぶりです。当日は講師との間で活発な議論が交わされ、特に20代、30代の若い世代の積極的な姿が印象的で、大きな手応えを感じています。ライブ配信やアーカイブをイントラネットで共有しており、全てのプロフェッショナルの意識改革や総合力向上につながるものと信じています。

デロイト トーマツ インスティテュート(DTI)が発行した最新レポート
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永田高士
デロイト トーマツ グループ CEO 

1995年、監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)入社。監査をはじめ、M&A・事業再生などのコーポレートファイナンスや、コーポレートガバナンス、リスクマネジメントなどに従事。デロイト トーマツ グループ ボード議長、グローバルのデロイト トウシュ トーマツ リミテッドのボードメンバーを歴任し、2018年6月より現職。










※デロイト トーマツ グループは日本で最大のプロフェッショナルグループ。会計監査、コンサルティング、M&Aのアドバイザリー、税務、法務、またリスクアドバイザリーなどを手掛ける。