人手不足が依然深刻だ。とりわけ多くのスタッフを抱える飲食や小売などでは、必要な人員を確保できず、営業時間の短縮や休業を余儀なくされている。このままではサービスを享受するわれわれの生活の質にも影響しかねない重大な社会課題だ。ここに活路を見いだすべく、数百という職場をつぶさにリサーチしたのが、リクルートライフスタイルの沓水佑樹(くつみずゆうき)氏だ。そしてついに、これまで見逃されていた課題を「発見」した。カギを握るのは「シフト管理」だ。

リクルートライフスタイル Airシフト サービス責任者 沓水佑樹氏

人手不足の時代を生き残るために
「働く人ファースト」の発想を

人手不足の根本的な原因は少子化にあり、簡単に解決する問題ではない。そのため、日々の仕事を回していくために、シニアや外国人労働者の活用など、人的リソースの多様化でしのごうとしている。こうした環境下、別軸のトピックも浮上している。飲食店や小売店の主力である学生を中心とした若年層の働き方の変化だ。

「以前は、例えば自動車を購入するために熱心にアルバイトをするなど、稼ぐ意識が強く、多少雇う側が無理を言っても聞いてくれる雰囲気がありました。でも今は、雇う側と雇われる側のパワーバランスが変わりました」。そう語るのは、リクルートライフスタイルの沓水佑樹氏だ。

リクルートライフスタイルは、売り上げや集客、在庫管理など、店舗の課題解決に役立つサービスを提供する一方で、個人向けスケジュール管理アプリ「シフトボード」を提供するなど、働く人へのサポートも実施している。「シフトボード」は、学生など若い層に支持され、345万ダウンロードを突破(数値は18年7月8日現在)、今やアルバイト向けスケジュール管理アプリのデファクトスタンダードとも言える存在になっているなど、デジタルの力で仕事や生活にさまざまなイノベーションを起こしている。

沓水氏は、2011年ごろから店舗の慢性的な人手不足問題に目を向け、リサーチを始めた。大手飲食チェーンの店長会議に出席したり、個人店舗を訪ねてヒアリングしたりと、店長やマネージャー、そして現場で働くパートやアルバイトの声を拾った。その膨大なデータから、人手不足の実態と悩みの裏側にある本当の課題にたどり着いた。

辞める理由の多くを占める『職場の人間関係』
その実情は柔軟な働き方ができるかどうか

「多くの店長さんが抱えていた悩みは、苦労して採用してもすぐに辞めてしまうことです。その原因を探っていくと、辞める理由の多くを占めるのは、『職場の人間関係』でした。さらに深堀りすると、店長やマネージャーにシフトの相談がしやすく、いかに柔軟な働き方ができるか、にたどり着くんです。希望する勤務日や休暇などプライベートな状況を含めて相談しやすい環境がないと、人間関係が良好に保てず辞めてしまうのです。店舗側が自分の都合を押し付けるのではなく、働きたい人それぞれのプライベートな事情にも配慮しながら望む働き方を叶える『働く人ファースト』の意識に転換する必要が出てきています」と、沓水氏は生の声で気付いた働く現場の変化について語る。

リサーチによってシフトの柔軟性が「働く人ファースト」な職場へのカギを握ることが見えてきたものの、実はそのシフト管理業務自体に大きな課題があることが分かったという。店長やマネージャーにとってシフト管理業務は大きな負担でありながら改善が進まず、非効率を承知で日々こなしてきた。沓水氏らメンバーは、そこにイノベーションが必要なことを「発見」した。

完璧なシフトなどない
いかに柔軟に働く側の要望に応えられるか

「シフト管理業務というのは、リソースが必要な曜日・日時に対して、店舗側とスタッフ側の要望をすり合わせ、決定したら全員に共有する手間の掛かる作業です。しかもせっかく苦労して組んだシフトも、スタッフの急な予定変更や、大口の予約への対応など、始終組み直しが生じ、終わりがありません」。さらに沓水氏は、心理的な負荷も無視できないと指摘する。

「希望以外のシフトに何とか入ってもらうには、日頃からスタッフと良好なコミュニケーションを築いておく必要があります。職場の人間関係がプレッシャーになっているのは、スタッフだけではないのです。店長やマネージャーは、SNSなどを通じて何人ものスタッフに対し、言葉遣いに気を付け、必要に応じて絵文字などを駆使しながら、何とか調整にこぎ着けているんです。この心理的な負担を含め、手つかずだったシフト管理業務の負担を、デジタルの力で改善しようと、『Airシフト』を開発しました」

Airシフトの開発に当たっては、徹底したリサーチが行われた。飲食やアパレルなどの店舗はもちろん、介護など多くの業種に足を運び、300を超える店長やマネージャーから、シフト管理業務に関する課題や要望を聞き取り、解決策を機能として盛り込んだ。無用な気遣いなくボタン一つで意思確認・意思表示ができたり、店舗で実際に呼んでいるニックネームが登録できたりするのも、徹底したヒアリングの成果だ

Airシフトは、これまで店長やマネージャーが手作業で行ってきたシフト管理を劇的に効率化する仕組みだ。これまでは、スタッフ一人一人の希望を紙や電話、メール、SNSなどで収集し、それを手書きや表計算ソフトにまとめていた。収集から調整を行うまでに、平均して月に15時間程度を要するという調査結果もある(*)。実際にAirシフトを導入した店舗オーナーからは、「シフト管理業務に費やす時間が70%も削減できた」という声が届いているという。

Airシフトでは、各人がスマホやタブレットからアプリ経由で、またPCからWeb経由でシフトの希望を入力することができる。従来は希望シフトの提出が遅れたり忘れたりしてなかなかそろわず、個別に提出を再度お願いする必要があったが、Airシフトは未提出者全員にプッシュ通知でリマインドしてくれるため、店長やマネージャーが気をもむことはない。全員の希望がそろったらそれを確認しながら、店舗の予約状況や混雑の予想などと照らし合わせて調整していけばいいのだ。これだけでもかなり便利だが、真価は心理的な負担の低減にある。

「調整交渉など、コミュニケーションを伴う業務は、シフト管理業務の中で8割を占め、店長やマネージャーの大きな負担になっていました。しかしAirシフトなら、この交渉も画面のシフト表を見ながら、『シフト調整依頼』のボタン一つでできます。スタッフもそれに対して『引き受ける』か『断る』かをボタン一つで返すだけですから、余計な気を使う必要がありません。またAirシフトには、シフト表示画面横にチャット機能があるため、機能的ながら、ドライになり過ぎないコミュニケーションが可能です」

Airシフトを導入した店舗からは「シフト管理が楽しくなった」「シフトを組む作業が苦ではなくなった」という声が届いているという。また、この手の業務支援ツールは、スタッフへの導入に当たり、使い方を覚えてもらうのが大変だが、Airシフトは、先述した「シフトボード」と連携できるため、多くのスタッフにとってまったく違和感なく導入できる強みがある。

シフト作成が3時間半から40分に短縮
今夏からは、AIでますます省力化

今年7月には、AIを使った「シフト作成アシスト機能」を追加。「店長やマネージャーの右腕のようなAIを目指しました」(沓水氏)という

あるカフェ・バーでは、従来のExcel集計からAirシフトに変えたところ、3時間半かかっていたシフト制作作業が40分に短縮。また30名のスタッフを抱える焼肉屋では、これまで対面で行っていたシフトの収集・調整をAirシフトにした結果、チャット機能によってコミュニケーションが活性化し、店とスタッフ双方の希望に沿ったシフトが組めるようになったという。飲食の他には内科クリニックでAirシフトを導入したところ、紙への転記作業がゼロになり、スタッフの人数が倍増したのに、シフト作成の時間は半減という例も報告されている。

このように現場から高い評価を受け、順調にユーザー数を伸ばしているAirシフトだが、この7月、新たに「シフト作成アシスト機能」を追加、さらなる進化を果たした。これはスタッフから希望のシフトを収集すると、店長やマネージャーがあらかじめ設定した条件に沿ってAIがシフトを組んでくれる機能だ。

「これはAIによる自動シフト作成機能ではありません。あくまで店長やマネージャーをアシストするものです。自動で一覧化されたシフト表に対して、店長やマネージャーが行う調整を学習し、シフトをより現実味のあるものにしてくれます。つまり、使うほどに店長やマネージャーの考え方やスタッフ一人一人の働き方のパターンに即したシフトを提案してくれるようになっていきます」

リリース前の実証実験に参加した店長からは、「シフトもメンバー構成も、ほぼ希望通り」「修正が最小限で済むので30秒で完成できる」と好評だ。

人手不足が続く中、政府は、働き方改革とともに、「未活用労働力」の発掘を促している。沓水氏は、これまでのシフト管理では生かしきれていない「未活用労働時間」が20%はあると見ている。

「われわれが把握しているデータによると、スタッフが希望として提出したシフトのうち約20%は、お店側の都合で削除されていることが分かっています。これは、スタッフ同士の希望がかぶってしまったり、お店として人件費を増やしたくない日時に希望が集中していることが原因ですが、見方を変えれば働き手としてはうまく希望が合うのであれば、あと20%は労働時間を増やしたいと思っている。究極的には、シフト管理がうまく機能すれば、社会全体として労働時間を追加で20%増やせる可能性さえあるとわれわれは考えています」

つまり、新たに人員を募集・面談し、育成していくのではなく、シフト管理を見直すことで、使いきれていなかった労働力を掘り起こすことができるということだ。Airシフトは、その可能性を秘めている。

*調査主体:リクルートジョブズ、 調査実施機関:マクロミル(2013年3月時点)

●Airシフト
https://airregi.jp/shift/