【沖縄県発】トリプルリスク解消で「長寿県」復活を!

行政と管理栄養士が生み出したご当地レシピとは?

2018.08.27(Mon) 中島久枝
筆者プロフィール&コラム概要

「トリプルリスク」という言葉をご存知だろうか。これまで個別に意識されてきた「高血圧、高血糖、高血中脂質」という3つの健康リスクが、どれか一つのリスクを抱えると連鎖してさらなるリスクを引き起こす可能性があるというのだから厄介だ。この新しいリスクの認知を広げ、実際に解決の糸口を探る動きが、沖縄など各地で始まっている。

各地で進むトリプルリスク解消の動き

「トリプルリスク」は、「高血圧、高血糖、高血中脂質」という生活習慣病の代表的なリスク要因3つのうち、どれか1つが悪化すると他の2つも連鎖して悪くなる可能性があるというものだ。例えば糖尿病の人は、そうでない人に比べて2倍も高血圧になりやすく、高血圧の人はそうでない人に比べ糖尿病になる割合が2~3倍高い。さらに心筋梗塞や脳卒中などの疾患リスクも高まるという。

特に働き盛り世代が健康診断の数値で「ちょっと気になる」のが、血圧、血糖値、血中脂質。これらトリプルリスクを表わす数値を改善するためには、塩分、糖分、脂肪分の摂取をコントロールすることが大切になってくる。そのために、正しい知識と対処法を紹介し、健康的な生活習慣づくりの啓発活動を行うのが、今年2月末に発足した「トリプルリスクを考える会」だ。

同会が、より実効力のある取り組みとして全国3都市の自治体の協力を得て4月から展開するのが「トリプルリスク啓発3都市プロジェクト」だ。3つの都市とは、食塩購入量全国一の青森市、長寿日本一の奪回を目指す長野県(平成27年の調査では女性は1位だが、男性は滋賀県に抜かれて2位)、そして、食用油購入量全国一の那覇市である。

「あぶら控え目」に取り組む那覇市

長寿県のイメージの強い沖縄県だが、現在は若者や働き盛りの健康維持に問題意識を持っている。男性の2人に1人、女性の5人に1人が肥満ながら、働き盛り世代の健康診断受診率が低く生活習慣病が重症化する傾向にある。その結果とも言える「65歳未満の死亡率が男女とも全国ワースト1位」(平成27年厚生労働省調べ)というデータは見過ごせない。

背景には、欧米のファストフードやスナック菓子、また、ポーク・ランチョン・ミートなど脂質が多い缶詰が好まれる現代の食生活、また、食物が傷みやすい気候の中で炒め物や揚げ物など、油脂を使う加熱調理が多い伝統、深夜におよぶおつきあいが頻繁に行われる土地柄などがあると考えられる。さらに、夜更かしして睡眠不足、朝食を抜いて昼や夜にドカ食い、暑いので運動をしないといった生活習慣が重なる。

こうした現状を打破するため、那覇市では那覇市健康増進計画「健康なは21(第2次)」を推進、「あぶら控え目」活動を行ってきた。具体策として平成19年度より、カロリー、脂質、塩分控えめ、野菜たっぷりのヘルシーメニューを提供する市内の飲食店を「健康づくり協力店」として認証・登録し、市民へ周知してきた。

トリプルリスク解消レシピで取り組みを加速

そこに今回「トリプルリスク啓発3都市プロジェクト」が加わり、さらに力強く市民にアピールしていくことになった。実際のレシピを提案するのが、一般社団法人トータルウエルネスプロジェクトオキナワ代表理事で管理栄養士の、伊是名カエ氏だ。

「以前は管理栄養士として病院に勤務していたのですが、糖尿病患者さんのケアをしていた際、『健康管理の知識があれば、相談する場所や方法を知っていたら、病気を防げたかもしれない』という患者さんの声をよく耳にして、とても切ない気持ちになりました」とかつての経験を語る。

「病気になってからでは遅い」。そんな気持ちから、1991年に現在の活動をスタート。講演会、沖縄食材を使った健康料理のレシピ開発、料理教室の開催、子供たちの食育教育などを行って食の面から健康をサポートしてきた。

伊是名氏が今回提案する「ご当地トリプルリスク解消レシピ」は5品。若い人にも好まれるよう食べ応えを意識、肉を使ったワンディッシュレシピが中心だ。例えば「パパタコライス」は、沖縄名物「タコライス」に使う合いびき肉の半量を沖縄ではなじみのパパイヤに替えて脂質を減らしている。人気メニューながら塩分、糖分、脂肪分が多いカレーライスも、野菜のうまみとスパイスでおいしくヘルシーに仕上げている。カレーはさらにゴーヤーを生野菜として添えるなど、沖縄食材を積極的に活用している点もユニークだ。

「『管理栄養士の考えたレシピは量が少ない、味が薄い、野菜ばっかり』と思っていらっしゃる方がいますが、今は油を使わなくても調理できる器具があるなど、健康食といっても満足感が得られるようになりました。ぜひ試してほしい」とアピールする。

市役所のレストランで提供。そのお味は?

今回「トリプルリスクを考える会」では、レシピをサイトや冊子で周知するだけでなく、那覇市保健所の協力を得て、那覇市役所本庁舎のレストランで5月から8月まで月3回、日替わり定食の一部として実際に提供している。

取材日は、「B定食」(480円)の「豚肉ときのこの甘辛やみつき丼」が「ご当地トリプルリスク解消レシピ」だった。豚肉と玉ねぎ、えのきの炒め物は豆板醤をきかせたピリ辛の味つけ。塩味を抑えながら辛みで食べ応えを生み出している。炒め物とご飯の間には豆苗が敷かれ、栄養と歯応えの面で一役買っている。

12時近くなると、続々と職員や市民がやって来る。市役所のメニューは麺類から丼物、定食、お弁当と幅広い。そうした中で、トリプルリスク解消レシピを選ぶ人も少なくない。食べている人の声を聞いてみた。

「今日、初めて食べました。血圧が気になっていたので選びました」(40代男性)

「A定食と見比べて、おいしそうだったのでこちらにしました。辛味がしっかりとして薄味とは思いません」(30代男性)

「体脂肪がちょっと気になっているので選びました。生の豆苗はシャキシャキ感があって、食べ応えがありました」(30代女性)

息長く続けることが重要

「トリプルリスク解消の取り組みは、啓発活動と実践が両輪。また、一過性ではなく、長く続けることが大切です」と伊是名氏は力を込める。市役所の食堂での提供は、月に数回、1回50食程度と限られる。しかし、それでも続けることが何より大切という。会食が続いて体が重い、いつもの服のウエストがきつく感じる、といった小さな変化を感じた時に、「塩・糖・脂」に気を配ったメニューの選択肢がそこにあることが重要であり、毎食とはいかなくても「今日の昼食はヘルシーな食事にしよう」と、少し心掛けるだけで最初は十分と、少しずつでも意識することの大切さを説く。

今回の取り組みは、管理栄養士が考えたレシピを、市役所の食堂という開かれた場で実際に食べられることに大きな意義がある。働き盛りの男性など、レシピの紹介が実践にはつながりにくい面もあるからだ。トリプルリスク解消に向けた那覇市の取り組みは、危機感からスタートしているだけに力強さがある。

伊是名 カエ (いぜな・かえ)

管理栄養士•健康運動指導士。学校・病院・企業内での管理栄養士を経て、1991年に独立。2015年に、一般社団法人トータルウエルネスプロジェクトオキナワを設立し、現在に至る。料理と運動教室の運営、県内施設での健康指導、体験型の食農教育などを積極的に行う。沖縄県産食材を活用したレシピ開発の実績も多数。

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