12年連続甲子園出場の偉業を成し遂げたチームをけん引する主将・矢吹(筆者撮影)。

 100回目を迎えた記念すべき夏の甲子園。福島県の代表は今年も聖光学院が勝ち取った。戦後最長となる12年連続出場。全国でも名うての強豪をけん引するチームの主将・矢吹栄希は、昨夏も主力として甲子園を経験した唯一の選手である。周囲からの注目と期待のなかでもがき、苦しんだ主将は、初戦を前に何を思うのか。東北大会を制した「史上最強」の聖光学院のキーマンに迫る。(JBpress)

プロ注目のスラッガー小園に対する聖光・矢吹

 大阪入りしてから安定した打棒を発揮する五味卓馬を、主将の矢吹栄希がおちょくる。

「卓馬、こっちに来てからトータルで10キロくらい飛ばしてますよ」
「飛ばしてねぇって!」

 周りに人がいても自然体でいられる。プレーヤーとしても、横山博英部長が「バッティングは上がってきたね」と言っていたように、矢吹本人もまた、いい状態で初戦の報徳学園戦を迎えようとしている。

 斎藤智也監督は「当然のことだけど、全員がキーマン」と前置きしたうえで、矢吹についてこう話している。

「去年も甲子園を経験しているし、全国でも指折りのバッターだと思っているからね。みなさんは小園(海斗/報徳学園)、小園って言うから、本人がそこを意識して気負いすぎなければいいなって。だから、こっちからプレッシャーをかけるようなことは言わない。『今のままでいいよ』って、それしか言わない」

 記者はおそらく、主将の矢吹に今年の甲子園で屈指の打者と呼ばれる対戦相手、小園のことを聞くだろう。だが、矢吹は周囲の声を受け入れているようにこう言うのだ。

「去年も甲子園を経験しているっていうのもありますけど、ここまできたらやるしかないっすからね。相手どうこうっていうより、今はとにかく野球がしたいっす」

 この言葉だけで充分だ。

 斎藤監督は、苦しみを乗り越え最後の夏に成熟した選手に対して「達観」という賛辞を贈ることがある。矢吹もまた、その域に達しているのかもしれない。

 それだけ、矢吹は苦しんできた。

 昨夏の甲子園で、下級生で唯一の選手として出場し、3試合すべてで安打と打点を記録するなど結果を残した。新チームとして始動してからは、周囲の視線の多くが矢吹に向けられる。チームは昨秋に初の東北大会を制し新たな歴史を築いたが、その喜び以上に明治神宮大会、そして、今春のセンバツでの敗北を誰よりも背負ってきた。