東京のあるエリアで、今、非常にユニークな取り組みが進んでいる。目黒から東急目黒線でわずか4分のところに武蔵小山がある。下町情緒漂う街であり、武蔵小山駅から隣の西小山駅にかけては、飲み屋を中心に400店舗もの飲食店が軒を連ねてきた。特に武蔵小山駅周辺は、狭い空間に220店舗が密集し、“暗黒地帯”との愛称もあった。美味い店が多いこともあり、芸人や女子プロレスラーをはじめ、多くの個性的客筋で賑わったものだ。
ところが、この街にも大規模再開発の波が押し寄せた。“暗黒地帯”の220店舗を立ち退かせ、そこに41階建ての複合型タワーマンション3棟を建設することが決まったのだ。立ち退きは急速に進められた。
「このままでは、“ムサコ・ニシコエリア(=武蔵小山から西小山にかけてのエリア)”ならではの魅力が失われてしまう」、そう言って1人の女性経営者が立ち上がった。地元の博水社3代目社長、田中秀子さん(57)である。
地元の飲み屋に顔を出すのが日課
博水社は、焼酎甲類・日本酒・ウィスキー・ワイン・泡盛・ジンなど各種のお酒を割って飲むための「割り材」のメーカーである。「ハイサワー」の名を冠した一連の商品群で広く知られる。