(前回「忘れてはいけない初代『ヴィッツ』の志」はこちら)

 初代「ヴィッツ」の登場から6年を経て2005年に投入された2世代目のヴィッツは、ざっくりした表現を許していただくなら、コンセプトから各部のデザインまで「拡大コピー」を継ぎ接ぎしたようなものづくりに終始していた。

2代目ヴィッツ。市場からの反響を受けて初代よりも「成長」しつつ、キャラクターは変えないようにして、多少なりとも新しさを出したい、というスタイリングである。(写真提供:トヨタ自動車、以下同)

 もちろん、あれだけ成功したものを「変える」ことには勇気がいる。特にトヨタ自動車のような大きな組織の中では。そして勇気だけでなく前作の時を上回るぐらいの知恵も要る。

 一方で、市場から「少し小さい(特に荷室スペースが)」「動力性能が少しもの足りない」とか「物入れがあるのはよい」といった調査データが上がってきていたことは容易に想像がつく。

 既存の製品を踏襲しつつ、そうした要求を各部それぞれに追加する、という作り方をすると、絵画でもそうだが、同じもののようでいて微妙にデフォルメされ、一歩引いて全体像を見るとバランスが崩れてしまっている、ということが起こりやすい。

印象が希薄だった拡大コピー商品、2代目ヴィッツ

 どれだけ成功したものであっても、工業製品である限りは技術の進化や変化、社会の状況やニーズの変化などによって旧態化してゆくことは避けられない。

2代目ヴィッツの側面透視写真。初代に比べて、後席の膝前空間、後方の荷室などが拡大されている。新しさを表現したかったのだろうが、ノーズからウィンドウシールドへ、折れ目なくつながるような形にしたことも含めて、プロポーションが変化、やや間延びしたものになった。

 そこで成功を継承しようとするのであれば、あるいは他が成功した所に乗り込んでゆこうというのであれば、その形態や構成をコピーするのではなく一度リセットして、何が優れていたのかを新しい技術背景を踏まえて思考し、動いている社会や市場のこれからを投影することで、どんな技術的解答が見えてくるか、そこから考えなければならない。

 特に自動車は、開発の着想から市場投入まで、基幹車種では数年が必要である。しかも、そこから数年以上にわたって生産し販売して、そうやって送り出したクルマたちはそれぞれに10年以上使われ続けてゆくもの。つまり、着想段階から見れば、20年かそれ以上先まで、自分たちが生み出す製品は「現役」なのである。

 もちろん、刻々と動く市場のムードや、付和雷同的な消費者のニーズに対応するモデルも、特にトヨタのようなフルラインメーカーには必要である。そうした製品では、既存のユニットを流用して、できるだけ短期間で商品化する、というアプローチも否定されるものではない。

 ただし、そうやって送り出した刹那型商品であっても、十数年先までは現役で走り続け、使われ続けるのだし、安全や環境などの資質をおろそかにしないことも含めて、作り手側がプロフェッショナルとして目を配った製品でなければ、企業としての基本的責任を全うしたことにはならない。