米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏に、米グーグルのCEO(最高経営責任者)を務めたエリック・シュミット氏、そして米ゼネラル・エレクトリック元CEOのジャック・ウェルチ氏。この3人には、昨今のデジタル変革をけん引する世界的企業を率いてきたというほかに、もう一つ共通点がある。それは人材育成手法として日本国内でも注目度が高まりつつある「コーチング」を受けてきたことである。

 コーチングと聞くと、コーチを務める人がコーチングを受ける人(クライアント)に対して「指導する」、あるいは「教える」といったイメージを思い浮かべるかもしれない。しかし、実際はその正反対に近い。コーチは原則として答えを出さない。答えはクライアントが持っているという前提で、あくまで対話を通じてクライアントに内在する考えや思いを引き出す。それがコーチングである。

 デジタルトランスフォーメーション時代に突入した産業界が抱える大きな課題は、イノベーションをリードする人材をいかにして育てるか、である。本連載では、早稲田大学のアントレプレナーシップ(起業家精神)教育プログラム「WASEDA-EDGE」、WASEDA-EDGEを発展させた新プログラム「WASEDA EDGE-NEXT」を紹介してきた。

(バックナンバー)
価値創出のカギを握る「起業家人材」を育てるには――イノベーションの担い手育成の勘所(1)

体系化した起業家育成プログラムの授業内容とは――イノベーションの担い手育成の勘所(2)

出口までを見据えて起業を体験する起業家教育――イノベーションの担い手育成の勘所(3)

 WASEDA-EDGEは、このコーチングを全国に先駆けてカリキュラムに取り入れた。学校教育はこれまで、どちらかというと学生に「教える」ことが主だったが、起業家人材の育成においては、受講生が自ら問題意識や行動の動機、ビジョンを明確化できるようサポートする役割に徹する。そうすることが、しなければならないからやるのではなく、何かを「したいからする」、すなわち「内発的動機」を発見しイノベーションを起こすモチベーションを高めるだけでなく、困難な状況に直面しても「やり抜く自信」につながると期待してのことである。

 コーチングの講座はWASEDA-EDGEが2014年度に始めた取り組みだが、すでに一定の有効性が確認できている。以下では、その成果を含め、コーチングのポイントを見ていく。

コーチングの3大要素、「傾聴」「承認」「質問」

 コーチングには「傾聴」、「承認」、「質問」の大きく3つの要素がある。傾聴では、どういった課題を感じているのかや、何を目指したいのかなど、クライアントの思いやビジョンに耳を傾け、とにかく集中して話を聞き切る。承認では、クライアントの考えや実践した内容などを否定することなく、事実を事実として認める。クライアントの成果や成長の変化に気づき、認めることも、承認に含まれる。そして質問では、クライアントに気づきを与えたり視野を広げたりする。