今年のお正月映画は例年になく豊作だった。特に邦画の健闘には目を見張るものがある。

 テレビドラマを通じて強力な固定ファンを掴んでいる刑事モノの「相棒 劇場版II 警視庁占拠!特命係の一番長い夜」に至っては、ハリーポッターやシュレックといった洋画の話題作をことごとく蹴散らし、初登場以来3週にわたって1位の座を譲っていない。

 また、地味ながら健闘しているのが「武士の家計簿」。20万部売れた同名のノンフィクションから江戸時代の武士の生活を想像して脚本化した映画だ。冬休み突入後に子供向け作品や話題作に押されて一度は10位以下にはじき出されながらも、また復活。最新のランキングでは7週目にして9位に食い込んでいる。

 そんな中で公開前の話題性のわりにいま一つぱっとしなかったのが「ノルウェイの森」(2010年12月13日公開)。言わずと知れた村上春樹の大ベストセラーの映画版である。

 テレビ局などが製作に絡んでいたこともあってか前宣伝もかなり盛んで、映画化が決まった時点からずいぶん話題になっていた。だが、蓋を開けてみると、残念ながら国内の興行成績は当初の期待には遠く及ばなかったようだ。

 実際、僕も公開初日に見てきたのだけれど、これは、あくまで原作を買った1000万人のうち最後まで読み切った人々が「ああこういう話だったか」とおさらいする場にしかならないというのが第一印象だ。

映画化されただけでも意義があった

 実はこの映画は、多くの村上春樹ファンにとって映画の出来がどうのこうのというより、村上作品の代表作が映画化されたということ自体が画期的だった。初の「本格的な」映画化と言ってしまってもいいだろう。

 村上作品は海外を中心にちょこちょこと映画化されてきたようだけれども、調べてみたらほとんどが自主制作の域を出ないものばかりだった。

 国内では僕が把握している限り、目立ったものは過去に2作。だが、いずれも扱いはB級で興行成績もぱっとしなかった。

 古くはデビュー作の『風の歌を聴け』をベースに、後のいくつかの作品からパーツを散りばめたような映画を、平成ゴジラシリーズで有名な大森一樹監督が撮った。1981年のことだ(実は、これはまだ見ていない。その理由は後述する)。

 さらにその後、短編の『土の中の彼女の小さな犬』が「森の向う側」という題名で映画化された(88年公開)。「ぴあ」の隅っこに小さく載っているような、単館上映の超マイナー作品だった。僕は中野のビジネスホテルの1階にある小さな映画館までわざわざ見に行った記憶がある。