「散歩しているとムスリムの人たちも、ワンちゃんに触っていい?と声をかけてくれる。イスラム国家での犬に関する印象や認識が変わった」という井上ニコさんと愛犬のベイビーちゃん(写真左、筆者撮影)

 「ここは犬のオアシス。イスラム圏だということを忘れてしまう」――。

 イスラム国家、マレーシアに移住して今年の3月で2年になるという井上二コさんは、マレーシアでのこの2年間の生活を振り返って、感慨深げにそう語る。

 大手商社を早期退職し、マレーシアの首都、クアラルンプールで起業した夫について、愛犬のベイビーちゃん(12歳、プードル、男の子)とともに東京から引っ越してきた。

愛犬を連れて行けるか不安だった

 「仕事で訪れたマレーシアを気に入った夫が、移住したいと言い出したとき、すぐに頭をよぎったのが『イスラム国家か。家族のベイビーを連れて行けるだろうか』」という大きな不安だったという。

 もともと、学生時代にロンドンに住んでいた経験から、海外移住には慣れていたが、イスラム国家は初めてだったからだ。

 また、すでに先人としてマレーシアに移住した夫の商社OBや日本人の移住コーディネーターの人から、「犬を連れていくのは難しい。連れていっても、日本のように自由に散歩したり、暮らしたりするのは大変よ」とアドバイスされたことで、さらにイスラム国家、マレーシアへの移住に躊躇せざるを得なかった。

 しかし、そんな不安は一瞬のうちに消え去った。

 移住を決意する前、クアラルンプールに来て試験的に1か月ほど住み、「イスラム国家でも犬に対する考え方は、国や宗派、さらに個人によってさまざまであること。人間そのものが、“多民族国家”のマレーシアでは、犬に対する考えも多様で寛容であること」が分かったからだ。

 それは、もともと日本人が抱く「イスラム文化では犬はタブー」とする常識を根本から覆すものでもあった。

 犬を敬遠するイスラム宗派はあるが、“グローバル化”による価値観の変化や情報拡散により、近代化するイスラム圏での犬を取り巻く環境や状況は変わってきている。