反日デモ現場のいまいちなジョークにも登場

 ただし、中国のネット上で蒼井そらが漂わせていた反体制の匂いはかなり早い段階で消える。所属事務所が中国市場の開拓に対して迅速に対応したこともあり、彼女は2010年11月に中国国内のSNSである新浪微博に公式アカウントを開設。「情強」以外の人たちからも大人気になったのだ。

 蒼井そらは中国国内での芸能活動を本格的に開始し、2011年には中国国内で楽曲をリリースしたりネットドラマに出演したりと引っ張りだこになった。やがてCMやバラエティ番組にも活動の幅を広げ、2012年ごろにはすっかり中国のVIP芸能人になる。同年1月にショッピングサイト大手の凡客誠品が、蒼井そらを旧正月前のパーティーイベントに招聘した際は、なんと50万元(約860万円)のギャラが支払われたという。

2013年に蒼井そらが中国でリリースした楽曲『我最宅(私がいちばんオタク)』のMTVより(中央が蒼井そら)。勢いはある

 結果、彼女の知名度はどんどん上がり、2012年9月に中国各地で大規模な反日デモが発生した際には「釣魚島是中国的! 蒼井空是世界的!(尖閣諸島は中国のもの、蒼井そらは世界のもの)」という、いまいち垢抜けないジョークがデモ現場のプラカードに登場するようにもなった。

 当初は限られたイノベーター層(先駆的な人たち)だけが食いついていたネタが、短期間のうちにレイトマジョリティ層(後追いで流行についてくる人)まで広く受容され、市民権を得たことを象徴する話だろう。

2012年秋、「尖閣諸島は中国のもの、蒼井そらは世界のもの」横断幕が中国国内で掲げられた様子。マレーシアの華字紙『光華日報』より

 蒼井人気に引っ張られる形で、中国では日本のAV女優ブームが広がった。以前から「性文化節」(成人関連商品エキスポ)などに日本のAV女優を誘致する動きはあったが、この流れはいっそう加熱。景気のいいIT企業が年末イベントなどでAV女優を招致する例もしばしば見られるようになった。