クラウゼヴィッツや孫子をはじめとする戦略思想家たちによってしばしば指摘されるのが、「戦争(War)に勝つこと」と「戦い(Battle)に勝つこと」は全くの別物であるという戦争の原則である。これはベトナム戦争やイラク戦争を見ても明らかだ。
この点に関して、米海軍協会の機関紙「プロシーディングス」11月号は、旧大日本帝国海軍の失敗を例に出して「『戦い』に勝つことへの執着が敗北を招きかねない」と警鐘を鳴らす論文を掲載した。
この内容は、現在の我が国が陥りかねない点を示唆していると言える。今回はその内容を紹介しつつ、我が国にとっての意義と教訓を論じてみたい。
「戦争」に勝つための準備をしなかった帝国海軍
この「戦いのための準備は戦争のためではない」と題する論文を書いたのは、元米海軍大佐のリントン・ウェルズ2世である。
ウェルズ氏は、ブッシュ政権時代に国防総省の最高情報責任者や国防次官補代理を務めた。1980年代には日本の防衛庁防衛研究所に派遣されたことがあり、日本とも縁の深い人物である。この11月にもサイバーセキュリティの専門家として訪日し、講演している。