農薬は食塩よりも安全である?

ドラッカーで読み解く農業イノベーション(8)

2011.01.07(Fri) 有坪 民雄
筆者プロフィール&コラム概要

イノベーションの第6の機会──「認識の変化をとらえる」

 「コップに『半分入っている』と『半分空である』とは、量的に同じである。だが、意味は全く違う。取るべき行動も違う。世の中の認識が『半分入っている』から、『半分空である』に変わるとき、イノベーションの機会が生まれる」

(『イノベーションと企業家精神』ピーター・ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社)

食塩より安全な農薬はいっぱいある

 農薬は、一般の消費者にとってネガティブな印象を持たれる農業資材です。初期の、まだ原始的な時代の農薬には危険性の高いものがあったのと、いわゆる反農薬運動によってこのイメージは作られたと言っていいでしょう。

 しかし、有機化学の産物である農薬は、有機化学の発展に応じて進歩を繰り返してきました。現在、売られている農薬の安全性はかなりのものです。急性毒性(摂取したらすぐ死ぬタイプの毒性)を挙げてみましょう。急性毒性の強さを表す指標に「LD50」(Lethal Dose 50:半数致死量)というものがあります。

 例えば「急性毒性、経口摂取(口から摂取)のLD50が3000ミリグラム/キログラム」とは、体重1キロにつき3グラム。すなわち、体重50キロの人が150グラムを一度に口から摂取すると2人に1人が死亡するという意味となります。数値が大きいほど安全性は高くなります。

 現在、日本で売られている農薬のLD50を調べると3000ミリグラム/キログラムなどまだ危険な方で、5000とか12000ミリグラム/キログラムなんて農薬もよく見つかります。

 読者の皆さんにとって一番なじみがあって、LD50=3000ミリグラム/キログラムの毒性を持つ物質とは何でしょうか。それは食塩です。農薬の安全性は、それほどに向上しているのです。

なぜ遺伝子組み換え作物は嫌われたのか

 農薬と同じく、ネガティブなイメージを持たれているものに遺伝子組み換え作物(GM)があります。

 日本、そして欧州で遺伝子組み換え作物が大々的に喧伝されたのは2001年。紹介されたのは、除草剤耐性を持つ大豆や、害虫耐性を持つトウモロコシでした。開発したのは、米国のバイオ化学メーカー、モンサントです。これが日本と欧州の社会で猛烈な反発を受けました。

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1964年兵庫県生まれ。香川大学経済学部経営学科卒業後、船井総合研究所に勤務。94年に退職後、専業農家に転じ、現在に至る。1.5ヘクタールの農地で米、麦、野菜を栽培するほか、肉牛60頭を飼育。主な著書に『農業に転職する』『農業で儲けたいならこうしなさい!』『戦略の名著!最強43冊のエッセンス』(共著)などがある。


農業の進む道

就業者の高齢化と減少、国際競争力の欠如など、様々な問題を抱える日本の農業。農業改革が遅々として進まないのはなぜか。農業を覆う問題の構造を明らかにし、あらゆる方面から日本の農業を活性化する方策を探る。