ゴールドの復権論議を、2010年が終わろうとするいま見ておきたくなった(前回のお断りにもかかわらず、臨時で「参戦」)。
通貨体制近年の歴史において、今年は金に対するドル価値の下落(金価格の上昇)と、それが招来した金復位を望む主張の高まりとによって特筆・記憶に値する。
情勢の変化につれ泡沫となり、消えてしまう議論だとは言い切れない。
QE2かタイタニックか・ドル希釈化は続く
米連銀によるQE2(量的緩和第2弾)は、連銀のバランスシートをさらに拡大させ、つまりはドルの価値を希釈化し続けている。
ドルはクイーン・エリザベス2世号ならぬタイタニック号と化し沈んでしまうこととはならないか、案ずるのは無理からぬところだからだ。
金の価格動向に直接利害をもつ人々の間でこそ、ゴールドが通貨として復権することを期待する主張は途絶えず続いていた。
金の虫、「gold bug」と呼ばれるそれら狭小な集団の声はしかし、主流メディアの紙面や放送電波に載ることはなく、ましてや識見に富む斯界の権威に同調者を得るなど、長らく考えられさえしなかった。
ゼーリック発言でゴールド論議が開花
この点における変化を象徴したのが、ロバート・ゼーリック世銀総裁による発言である。
同氏は11月7日、間近に迫ったソウルG20を睨んでFT紙に投稿し、「通貨価値に対する市場の期待を見る参考指標として、金を用いることを考えるべきだ。経済学の教科書は金を昔の通貨と言うかもしれないが、市場は今日既に金をもう1つのマネタリー・アセットとして扱っている」と述べた(寄稿原文)。
これが堰を切った形となって、金復権を求める声が随所に高まったのである。