クルド人を診察するアラブ人医師

 クルド独立住民に投票に端を発した、クルド自治政府とイラク中央政府の軍事衝突の危機はクルド側が事実上の無血開城を行ったことにより、収束の兆しを見せている。

 イラク中央政府はキルクークに進軍し、大規模な衝突が起こることなくキルクーク県庁までも支配下に置いた。そして同県庁にこれまで掲げられていたクルド国旗は降ろされ、イラク国旗がその上に掲げられた。

 クルド2大政党のうちの1つ、クルド愛国同盟が衝突回避のために、事前にイラク中央政府側と交渉しペシュメルカ(クルド軍)を撤退させてキルクークを引き渡すことに合意していたとの報道がなされている。

 クルドの独立に向けた動きはあたかも薄氷を持ち上げるがごとくバリバリと割れてしまい、クルド勢力側に強固な連帯が存在しなかったことが露呈された。

クルド自治政府の2大政党に亀裂

 クルド自治政府を担う2大政党マスウード・バラザーニー率いるクルド民主党と先日亡くなったジャラール・タラバーニーによって創設されたクルド愛国同盟の決定的な亀裂である。

 独立住民投票後、中央政府や周辺諸国からの圧力が強まるなか、クルド民主党の強行姿勢をいち早く批判したのが、10月5日に亡くなったクルド愛国同盟の創設者ジャラール・タラバーニー元イラク大統領の妻でありクルド愛国同盟の幹部であるヒロ・イブラヒーム、そして息子のバーフィル・タラバーニーであった。

 独立住民投票に対する経済制裁が課され始めた最中の10月1日、住民投票の実施を指導したクルド住民投票高等評議会はその任を終え、これに代わって新たにクルド政治指導部高等評議会を結成することを発表した。

 しかし、10月3日、ヒロ・イブラヒームはこの新しい評議会設立をイラク革命指導議会(バアス党政権時代の国家最高機関)の設立に等しい」と述べ、バラザーニー大統領による近年の独裁的傾向を強く批判していた。

 また息子のバーフィル・タラバーニーは現在のクルド政府による政治を批判する動画を英語で国際社会に向けて発信し、その動画の中で意図的にクルド国旗を隠し、イラク国旗を掲げることでイラク中央政府に恭順する姿勢を示していた。

 今回、キルクークの明け渡し合意を結んだのはこのバーフィル・タラバーニーであるとされている。