中国では、2009年が不動産価格の高騰に翻弄された1年だったとすれば、2010年は物価高に翻弄された1年だった。上海でも市民の話題をさらったのは上海万博や尖閣問題などではなく、むしろこの物価高だった。

 インフレの兆しが見え始めたのは2010年4月。初夏からは緑豆やニンニクの価格の上昇が話題になり始め、7月には全国36都市の7割近くの都市で農産物が値上がりを見せた。11月上旬には、綿花、砂糖、ニンニクなどの農産品はさらに暴騰した。

果物好きの中国人は、リンゴの価格に敏感に反応する

 実質的な収入増が見込めない中で、中国国内で7割以上を占めると言われる低所得者層は痛手を被った。中国の消費者物価指数は10月で前年比4.4%増、11月は5.1%増となった。

 「海●族(●は、くにがまえに屯)」(買い占め族)、「●●族(●は、手ヘンに区)」(節約族)、「特捜族」(特価品の物色族)、「団購族」(団体購入族)など、世相を反映する流行語がいくつも現れた。

 「先進国ではデモができるけれど、この社会では、デモで不満を訴えるなんてあり得ない」

 ぶつける先を失った不満を飲み込むしかない一般市民。上海市閔行区に住むAさんの不満もまた物価上昇だった。500グラム当たり約2元で買えたリンゴが、ここに来て約5元ほどにつり上がったことを例に挙げ、切羽詰まった台所事情を打ち明けた。

政府と上海市が矢継ぎ早に物価抑制策

 こうした状況に対して、中央銀行である中国人民銀行は、すでに10月20日から預金と貸し出しの基準金利の引き上げ、また11月中に預金準備率の引き上げを2回行っている。中国人民銀行では10月の利上げの時期と前後し、「インフレ対策は最も切迫した解決課題」と掲げるようになった。

 中国商務部は「複雑な中間流通に問題あり」とし、食用油・大豆・トウモロコシの、備蓄の放出を行った。しかし、それでも効果はなかった。通貨問題、国際商品価格の上昇、ホットマネーの流入、農業における生産コストの上昇と、原因は複雑に絡み合っていた。

 11月16日には、温家宝首相が広州視察の際、「需給と物価は市民の生活に切実に関わる。重視すべし」との談話を発表した。