大恐慌以来の金融危機に伴い、米国一極主義は終焉を迎え、世界経済は多極化に向かい始めた。しかし、目先の同時不況から脱するには、米国が不良債権問題を解決しなくてはならず、皮肉にもオバマ米大統領が世界の期待を一身に集めている。いかにすれば、米国は危機を脱出できるのか。危機後の国際金融界はどのように変質していくのか。

 バブル崩壊後、日銀理事から破綻した旧日本長期信用銀行(現新生銀行)の頭取に転じ、不良債権処理と格闘した安斎隆セブン銀行社長に世界経済の見通しなどを聞いた。

 JBpress 金融危機の終息には、どんな政策が必要なのか。

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 安斎氏 ようやく、金融機関に対する資本注入が始まった。しかし、資本注入だけでは駄目だ。やはり不良資産と称されるものが、金融システム全体から取り除かれないと、新たなマネーの供給が行われない。今までは資本注入でこれだけ引き当て、これだけ赤字になったという段階。これから「バッドバンク」をつくり、不良資産を移動させるだろう。バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長のスピーチにそれが出てきた。

 銀行には負債に見合う資産があり、それぞれ期日が来ると回転していく。10年物なら10年、3年物は3年経つと、負債勘定と一緒に回転する。ところが資産が腐ってしまうと、返すべきカネがない。すると、ほかの資産を収縮させてでも、この負債勘定の回転に応えようとする。特に米国や欧州では、レバレッジ(てこ)を利かせていたから、信用収縮がものすごく強く出た。実態以上に(レバレッジが)大き過ぎた部分は、マーケットの力で強制的に縮小過程に入っている。

 より大きな信用収縮を防ぐためには、資本を入れなくてはならない。一方、金利を生まない不良資産を抱えたままでは、どんどん劣化していく。回転がないと(資産価値は)どんどん下がっていく。不良資産を持ち続けるのではなく、(バランスシートから)外して初めて損失が明確になる。その後資本を入れて、新しい回転が始まる。そういう風に持っていかないといけない。

 それでようやく、銀行同士がお互い信用できるようになり、新たな信用創造が可能になる基盤がつくられる。政府部門を除けば、市場経済では資産・負債の回転により、国内総生産(GDP)が形成されている。回転しない限り、新たな信用創造、すなわち付加価値は生まれてこない。

米シティ、旧長銀と同じ局面に

 ――国有化後の長銀で頭取として、安斎氏は不良債権処理の陣頭指揮を執った。当時の日本の金融システムと、現在の米国の問題を比較すると?

 安斎氏 「日本は不動産が問題でモノはあったが、米国は証券化商品の問題」と言う人がいるが、基本は米国も住宅の問題だ。色々と組み合わせた証券化商品が、巨大になっていた。サブプライム以外の住宅ローン、あるいは企業の設備投資資金の証券化商品なども連動していた。サブプライムが大きく値下がりすれば、他の不動産や建物の価値も落ちてくる。

 だから、基本は日米同じ。当時の日本では、担保不動産の取引がストップしてしまった。そうすると、回転が付くような値段まで下げない限り、処分ができない。これを時価と呼ぶなら、時価ということになる。

 (関連ノンバンクの)日本リースから始まり、先駆け的に長銀はそういう形で追い込まれていった。そういう処分で買い手が得をすると、他の人も動き出す。外資が入ってくるし、日本の銀行も「ああ底入れだ」と思い始めた。最終的な処理は小泉内閣の竹中平蔵金融担当相だとしても、相当な策を政府や整理回収機構(RCC)などが1999年の段階で実施していた。