ドミトロ・フィルターシ氏 (C) http://dmitryfirtash.com

 今から3年前の2014年3月、ウクライナのペトロ・ポロシェンコ氏(現大統領)は、元プロボクシング・世界ヘビー級王者ビタリ・クリチコ氏(現キエフ市長)とともに、ウィーンにおいてドミトロ・フィルターシ氏に会った。

 来たる選挙の出馬調整が行われ、ポロシェンコ氏は大統領を、クリチコ氏はキエフ市長を選ぶことで、その後のウクライナの運命は決定づけられた。

ドミトロ・フィルターシとは何者か

 フォーブス・ウクライナ誌によれば、ドミトロ・フィルターシ氏はメディア・グループと化学工業、各地域のガス配給事業を抱えるウクライナ第16位の資産家(総資産額2億ドル)である。

 その一方で、キング・メーカーとして過去10年間、ウクライナ政治・経済に隠然たる影響力を保持してきた。

 その原資は、2006年新年に生じたウクライナ・ロシア間の天然ガス紛争である。彼の活動からウクライナ政治を見ると、ステレオタイプ的な東西分裂イメージは再考せざるを得なくなる。

「2006年のロシア・ウクライナ天然ガス紛争」

 2006年初に生じたロシア・ウクライナ間の天然ガスをめぐる紛争は、一般的に「ヨーロッパ市場価格を要求するロシア側に対し、旧来の価格からの高騰を避けたいウクライナが抵抗し、契約切れとなって供給が滞った」と解釈される。

 また、オレンジ革命を経て誕生した新欧米政権に対して、クレムリンが「ガス外交」を行ったという見方もされる。

 しかし紛争後に結ばれた契約は非常に奇妙なものであった。ガスプロム本社に呼び出されたウクライナ代表団が調印を迫られた契約書には、RosUkrEnergo社がウクライナの輸入する全輸入ガスを仲介する旨記載されていたのだ。

 のちに明らかになるのだが、このRosUkrEnergo社をガスプロムと共同で所有していたのが、上述のフィルターシ氏であった。

 ローリスク・ハイリターンのガス仲介業を、ガスプロムが、わざわざこのスイス登記の会社につけ替え、さらには、ウラジーミル・プーチン大統領の黙認も受けてきた理由は不明だ。

 同社は2004年に登記された直後に、ロシア・ウクライナ政府間合意で中央アジア産ガスのウクライナへの仲介業者に指名されたことから分かるように、当初から、両国指導部が関与する企業であった。