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いきなり熊と遭遇した人はどのようにして助かったのか?(写真はイメージ)

(文:塩田 春香)

熊!に出会った襲われた
作者:つり人社書籍編集部
出版社:つり人社
発売日:2016-08-16

 山歩きが好きだ。地面に這いつくばってキノコの写真を撮ったり、動物の糞を見つけて内容物を調べたりしながら森を徘徊するとき、「ああ、生きててよかった!」とつくづく思う。

 ところが今年6月、衝撃を受ける出来事があった。秋田県鹿角市で起きたツキノワグマによる連続人身事故。射殺されたクマの胃袋から、ごく少量だが人の組織が発見されたのだ。

 北海道に生息するヒグマは過去に凄惨な事故を起こしているが(ただしこれも極めてレアケース)、本州と四国に生息するツキノワグマは「人を襲って食べたりしない」と思われていた。噛みついたとき口に入ってしまった可能性も否定できないし、射殺された個体が人を襲ったものと同一かもわからない。だが、この件が山に入る人たちに大きな不安を与えたことにはかわりない。

 本書『熊!に出会った 襲われた』は、この鹿角の事故を受けて製作された。クマに遭遇したさまざまな事例や専門家による考察、不幸にして襲われてしまった人たちの体験談などがまとめられている。版元が「つり人社」だけにほとんどの体験談は釣りにまつわるもので、深刻ではないケースにはユーモアさえ感じさせる語り口のものもあるのが特徴だ。

「まさかの油断」が遭遇を招く

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 まずは遭遇事例を見てみよう。

“林道まで上がってふと見ると、一匹の犬が道路脇にいた。思わずチチッと舌を鳴らすと人懐っこく寄ってきた。ところが足元まで来たのをよく見ると、犬ではなくて子グマだ。”

“(友人と釣りに行き)入渓時にきっちり川分けし、それぞれの場所を釣るはずだった。ところが一番楽しみにしていた堰堤上のプールにお昼頃着くと、友人がちゃっかり割り込んでいるようだった。河原の木の枝がガサガサと大きく揺れている。(中略)私は文句を言ってやろうと「主」に数メートルまで近づき、「おい!」と強めの口調で声を掛けた。声に驚き葉っぱの間から顔を出したのは、友人ではなく、真っ黒く艶々とした毛並みの大きなクマの顔だった。”