32.3%。これは、平成24年度新規大学卒業者の卒業3年後の離職率だ。「若者の3分の1は3年以内に会社を辞める」という“定説”は、あながち間違っていないことになる。特に事業所の規模が小さいところでは離職率が高い。5人未満で59.6%、5人から29人で51.5%と半数を超え、30人から99人で39.0%、100人から499人で32.2%となっている。

 仕事を辞める側には様々な事情があるだろうが、雇用をする側にしてみれば、採用し教育した人材を失うのは大きな痛手だ。特に、少子高齢化が進み若手の人材確保が難しくなっていく状況下では、多くの社員にできるだけ長く働いてもらいたいというのが本音だろう。

9種類の働き方を1年ごとに選択可能

 そうした状況において、時短勤務や在宅勤務などの制度を整える企業が増えているのは当然の流れと言ってよい。中でも先進的な試みをしているのがグループウェア大手のサイボウズだ。

 同社は1997年に愛媛県松山市で創業して以来、事業拡大と人材確保のため、本社を大阪、東京へと移してきた。しかし、成長に伴う痛みもあった。東証一部に上場する前年の2005年に、離職率が過去最悪の28%にも達したのだ。この数字は拠点を移動していた時期よりもはるかに高い。

 そこで同社では社員が働きやすい環境を整えるため、次々に新しい制度を導入していく。

 まず2006年に最長6年間の育児・介護休暇制度を導入。また、2007年には「ライフ重視型」「ワークライフバランス型」「ワーク重視型」という3つのタイプから働き方を選択できる制度を導入した。

cybouzのライフスタイルライフスタイルに合わせて働き方を選択できる人事制度

 選択した働き方は、1年ごとに変更可能だ。しばらくは「ワーク重視型」で働き、出産と育児の時期には、育児休業を取得後に「ライフ重視型」で働き、その後、子育てが落ち着いたら「ワーク重視型」に戻すといった使い方ができる。現在はその働き方を、時間の長さと場所の組み合わせで9種類から選択できるようになっている。毎日16時には退社するとか、出勤するのは週に2日といった働き方も選べるのだ。

28%もあった離職率が4%に激減

 また、2012年には3つのユニークな制度を導入している。

 1つは「ウルトラワーク」制度。これは月4回までという制限のもとで2010年から実施されていた在宅勤務制度を拡大し、総労働時間の10%程度を目安に、場所や時間を問わない働き方を認めるというものだ。その方が仕事の生産性が上がると感じたら「大雪でダイヤが乱れているので午後から出社する」「日中はスギ花粉の飛散が多いので自宅で仕事をする」などの理由で利用できる。

 2つ目は「育自分休暇制度」。耳慣れない言葉だが、言ってみれば、会社を“辞めやすく”する制度だ。転職や留学など、環境を変えて自己研鑽を図ろうとする社員(35歳以下)に、復職を前提とした退職という選択を与えている。最長で6年以内の復職が認められているのが特徴で、長い会社員人生の間に最長6年間の自由時間を設けることで、最終的には長く働いてもらおうという意図がある。サイボウズではすでにこの制度を利用した社員が青年海外協力隊などで活躍中だ。

 3つ目の制度は、副業の許可である。副業を禁止する企業が多い中、業務に悪影響を及ぼすものでない限り自由な副業を認めている。社員の精神的自立と共に、業務へのフィードバック効果も期待できる。昨今は農業など、これまでサイボウズが手がけるグループウェアがなかなか浸透してなかった分野でのIT化が進んでいるが、たとえば週末に副業として農業を経験していれば、顧客の立場でシステムの開発を行えるというわけだ。

 このように働きやすい制度を整えていった結果、2005年に28%もあった離職率は激減し、2013年にはわずか4%にまで減った。2015年の数字も同様である。また、新卒3年離職率は1.6%と低い水準に留まっている。働き方改革は確実に、同社で長く働く人の比率を増やしている。
 

働き方が多彩だからこそ問われるマネジメント

 ただし、自由な働き方を認めると、心配事も出てくる。業務効率が低下することだ。個々人にとってはそれが働きやすくても、会社全体となるとどうなのか。業績に悪影響を及ぼすことはないのか。

 サイボウズはその疑問に対して、1つの答えを提示している。離職率が4%程度に落ち着き始めた時期から、売上げが急成長しているのだ。2012年度に約40億円だった売上げは、2013年度に約50億円、2014年に約60億円、2015年度には約70億円と増加の一途をたどっているのだ。

https://note.mu/yoshiaono/n/n78653cb9fc5fより青野氏ブログ(https://note.mu/yoshiaono/n/n78653cb9fc5f)より

 もちろん、働きやすい制度を整えさえすれば売上げが上がるというものではない。自由であることを履き違える社員が出てこないよう、多彩な働き方をする一人ひとりに目を配ったマネジメントが求められる。

 サイボウズはそのマネジメントも重視し、マネージャーと社員の信頼関係が深められるような仕組みを整えている。その仕組みは、給与決定プロセスにも組み込まれている。

 サイボウズの社員の給与は、その社員の市場価値によって決められている。需要が大きければ上がり、少なければ下がるというわけだ。ただし、社内での需要だけを基準にはしていない。「信頼」「社内需給」「相対感」といった“社内的価値”に加え、“社外的価値”も持ち込んでいる。社外的価値とは、“転職したならもらえそうな給与”である。転職市場でのその社員の価値を、給与に反映させているのだ。

 さらに、こういった給与決定のプロセスを、社員一人ひとりに説明できる体制を整えている。その分「なぜ私の年収は500万円なのか」といった社員の疑問に答え、「ここをこうしたらもっと上がる」というフィードバックができるようにしているのだ。こうすることで、給与に対する社員の“モヤモヤ感”を払拭できる。

 そもそもサイボウズは、社員の給与を正しく決定するのは無理だというスタンスに立っている。Aさんの年収は500万円なのが“正しい”とか、いや520万円なのが“正しい”のかは、誰にも判断できないと考えているのだ。だからこそ、異なる働き方をしている一人ひとりの社員が自分の給与に納得できるよう、給与決定の基準とプロセスを明確にしているのだ。

 青野慶久社長は「社員が100人いれば、100通りの人事制度があっていい」という考えの持ち主。社員同士を比較するのではなく、それぞれの社員がベストをつくせる環境を整えることがトップの仕事だと自負しており、給与制度にもその考え方が活かされている。
 

外部からも「働きがいのある会社」として評価

 社員一人ひとりが自分に合った働き方をすれば、会社にはいい影響がもたらされる。意に沿わない働き方をして疲弊している社員からは新しい発想は生まれない──。同社のさまざまな制度は、その思いから作り出された。

 その取り組みは社外からも高く評価され、2014年には経済産業省主催の「ダイバーシティ経営企業100選」に選出され、2016年にはGlobal Place to Work institute Japanが実施した「2016年版日本における『働きがいのある会社』ランキング(従業員100から999名部門)」で3位にランクインしている。

「100人いれば、100通りの人事制度があっていい」のと同様に「100社あれば、100通りの人事方針があっていい」。しかし、サイボウズのやり方は、これからの企業経営の大きなヒントになるはずだ。

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