駅前の再開発が進むにつれ、少しずつ新しい表情を見せるJR田町駅。芝浦口を出て海側へ歩くと数分で芝浦工業大学に到着する。「社会に学び、社会に貢献する技術者の育成」を理念とし、来年には創立90周年を迎える歴史ある芝浦工業大学が今、これからの日本を牽引することのできるビジネスパーソンを育成している。それが「芝浦工業大学専門職大学院工学マネジメント研究科」、通称“芝浦工大MOT”である。

交通至便な芝浦キャンパス

芝浦工大MOTは2003年、全国に先駆けて誕生したMOT専門職大学院だ。この「MOT」とは「Management of Technology(技術経営)」の頭文字だが、あまり聞きなれない人も多いのではないだろうか。「芝浦工業大学の大学院ですが、決して工学を教えるところではありません。ここで教えているのは経営学です。それもただの経営ではなく、『技術を使って新しいものを生み出すための経営学』を学ぶ場所です」と話すのは、工学マネジメント研究科長の田中秀穂氏だ。

芝浦工業大学専門職大学院
工学マネジメント研究科 田中 秀穂 氏

 

技術の持つ価値を最大限に高める経営とは?
-「MOT」が必要な理由-

 日本が世界に誇る技術力を支えているのは、日々の業務で腕を磨くエンジニアたちだ。ここ芝浦工大MOTがビジネスを教える主なターゲットは、まさにこの技術者だという。「私たちが主なターゲットとしているのは、高い科学技術力をベースにした企業活動を支えている中核たるエンジニアです。またそれに加えて、技術をビジネス活動に活かしている多くのビジネスパーソンもターゲットとしています」と田中氏は言う。

「例えばものづくり企業だと、新製品開発や生産の過程で様々な技術を駆使しています。しかしその技術は、どれほどものづくりに生かせているのでしょうか。もしかしたら違う技術を導入すればより良い製品になるのではないか、別の技術を組み込めば、もっと利益が上がる製品に出来るのではないか…と、世にある技術と製品の価値向上を合わせて考え、ベストな方法は何なのかを勉強しようとしているのです」

製品の価値を上げるには、もちろんエンジニアが持っている技術を高めることも大事な要素の一つであることは疑う余地がない。しかし、それだけでは足りないらしい。「ビジネスという大きな枠組みの中で、持っている技術が最大限活かされるにはどうしたらいいでしょうか。技術を使って製品の価値をもっと高める方法を知り、さらには自分で実行するための経営的な知識を学ぶ場所がMOTなんです」と田中氏は続ける。

同じようにビジネスを学ぶ専門職大学院に経営学修士(MBA:Master of Business Administration)があるが、それと何が違うのだろうか。「MBAでやることは基本的にここでも学べますが、そこに工学系大学としての強みを生かした技術経営戦略などのMOT独自の分野が加わっている。さらに芝浦工大MOTでは欲張って、産業別の技術ビジネス論も開講しています。自分の業界じゃない科目についても学んでもらい、その視野を広げることができるんですよ」
 

なぜ芝浦工大MOTが選ばれるのか
-技術+ビジネスで身につく力とは-

 ビジネススクールは数多くあれど、MOTが学べる場所は全国に10余りだ。その中で、芝浦工大MOTが持つ強みとはどこにあるのか。最初に挙げられたのが、人のつながりだ。「日本で最初に誕生したMOT専門職大学院ですから、OB・OGの数が多いですね。修了生には一部上場企業の社長や執行役員クラスもいれば、商社の新規事業開発部長に経営企画部門のトップなどなど…、実に様々な人がいます。在校生との交流も頻繁に行っているので、しっかりしたつながりを作ることができます。さらに芝浦工大MOTは1学年が少人数なので、学生間や教員との関係も非常に強く、将来的にも継続した人脈を築いていけるのは大きな特徴です」と田中氏は胸を張る。

一学年が少人数で学生と教員の距離は近い

また、日中働くエンジニアが対象であるがゆえのサポート体制も大きな魅力となっている。「社会人なので基本的には土曜日と平日の夜が学ぶ時間です。しかしMOTを勉強する社会の中核たるエンジニアが主にどういう部署に勤めているかというと、工場の開発部や研究所だったりします。するとその拠点は23区内でなく郊外が多い。さすがに仕事を終えてからの通学は物理的に難しいですよね。なので、ハイブリッド講義というものを行っています」。ハイブリッド講義とは、平日夜に行われる授業をビデオに撮り、オンデマンド配信することで学校に来なくても受講が可能というもの。「黒板もスライドも見られるし、発言する学生にもマイクを持たせているので、さもその場にいるような形で受講できます」と田中氏は話す。

また、工業大学ならではの強みを生かした取り組みも積極的に行っている。「今年はSBMC芝浦ビジネスモデルコンペティションを行います。芝浦工大が持つ特許を使ってビジネスプランを考えてもらうというもので、芝浦工大MOTだけでなく学部生や一般からも公募します。ここは歴史ある工業大学なので、優れているけど使われていない特許がたくさんある。この利活用が図れる上に、教育とも結びつけることができます。うまくいけば、社会に芝浦工大MOTをアピールできるかもしれませんよね」と田中氏は意気込む。

確かに規模の大小はあれ、会社に眠っている特許は立派な知的財産である。使われずに眠っている技術的な財産を、使い方を一番知っているはずのエンジニアに有効活用してもらえたらそれほど効率のいいことはない。「座学や実践を通じて、課題の発見力・解決力といった力を基本として身につけてもらおうと思っています。加えてここはMOTなので、究極的には「技術をベースにした付加価値の創造ができる力」を身につけてほしいと思っています。言い換えれば、技術をお金に変換できる力、技術を社会に還元する力とも言えますね」。
 

技術のない国にMOTはいらない
-日本の技術力をビジネスの力に-

 日本の産業を支えるエンジニアには、寡黙にその技を研ぎ澄ましているイメージを持つ人も多いのではないだろうか。もちろん高度な技術のためには業務を通じた日々の鍛錬が欠かせないのだが、社会の中核をなすエンジニアがビジネスを知ることで「技術」に対する見方を変えることができると田中氏は言う。「エンジニアは『こんな技術があるからこういうものが作れる』と提案する。これだと良いものは作れても、ベストなものはで作れません。マーケットが『こういうものが欲しい』と訴えるものを作るには、果たしてどんな技術があればいいか、という考え方も大事。テクノロジーからの提案もマーケットからの要求も両方必要なんですよね。この考えはエンジニアが持っている方がいい。たとえマーケティングの人がわかっていても、テクノロジーの細かなことまではわからない。エンジニアが両方の考えを持てるようになると、より社会に受け入れられる製品を作れるようになるんです」。

もちろん、言うは易く行うは難し。両方の考えを持つとなるとマーケットを理解しないといけないし、原価計算も必要になる。チームで業務に当たるとなれば、部下をマネジメントしなければいけないし、マーケティング担当とのコミュニケーションは、きっと経営学の用語を知らなければ言葉が通じないだろう。しかし、この能力を身につけることがこれからの日本社会にとって必要だと田中氏は断言する。「ほとんどのエンジニアは、これまで技術のことだけをずっとやってきた。これは日本にとってはすごく勿体無いことだと思います。持っている技術はものすごく高いのに、外国の企業に比べてビジネスに活かすという部分が弱かったのが、大きな日本の課題だろうというのが20世紀後半から言われてきたことです。なので、技術者の方にぜひ自己変革を促したい。技術を使ってどのような製品を作ることができ、利益を上げることができるのか。ここに一貫して携わることによって、日本の企業、日本の技術者はもっと大きな仕事ができるはずです」

日本の高い技術力を維持するにはもちろんキャリアを賭して技術を磨き、その道を極め続ける人も必要であることは間違いない。しかし、これから世界の中で日本のものづくり企業が生き残るには、技術の維持だけでなくそのすべてを活かしきることが必要不可欠になる。そこで、技術を磨きあげた職人だけでなく、経営・技術の両方をわかる人、互いの文脈をつなぐことのできる人材の輩出が重要であると田中氏は話す。「高い技術を持っているからこそ、しっかり市場につながることができればもっと大きな力にすることができる。高い技術を持たない国には、MOTは必要ないんです。」
 

<取材後記>

 MBAと比べて目や耳にすることの少ないMOT。しかし高い技術力が何よりの資源である日本にとって、とても重要な役割を担っているのではないだろうか。芝浦工大MOTはさらなる認知向上のため、様々な取り組みを行っている。その一つがビジネスモデルコンペティションであり、また昨年はJ-MOOCによる授業映像も実施している。ものづくり企業の中にしっかり「MOT」の3文字が根付いて欲しいと取材を通じて思った。
 

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