2016年3月1日より東京・上野の国立西洋美術館で開催中の「カラヴァッジョ展」は、この破天荒な天才画家とその広範囲におよぶ影響を理解できるまたとない機会である(6月12日まで)。初期から晩年にいたる貴重な11点のカラヴァッジョ作品に加え、重要なカラヴァジェスキ(カラヴァッジョ派)の画家たちの代表作が揃うのだ。
初めて写実主義・自然主義を確立
カラヴァッジョは西洋美術史上、最大の改革を行った天才である。
ルーベンス、ベラスケス、レンブラント、フェルメールといったバロックの巨匠たちは、彼がいなければ生まれなかったと言われている。美術の宝庫イタリアでも別格扱いされ、もっとも人気のある画家として、かつての10万リラ札の顔にもなっていた。
その革新性はなによりも、美術において初めて写実主義・自然主義を確立し、身近な静物を触れそうなほど本物そっくりに描き、聖書の物語を日常で起こりうる現実のドラマとして表現したことにあった。彼の出現によって、絵画は絵空事や理想世界を描くものではなく、見えるものをそのまま写し取る現実の鏡になったのである。それを可能にしたのは、彼の卓越した技術と、宗教への独自の理解であった。