日本銀行が1月29日に打ち出した「マイナス金利」政策は、日銀の狙いとは逆に激しい円高・株安をもたらした。円は1ドル=120円から一時は110円台まで上がり、日経平均株価は2000円以上も下がった。市場では「黒田バズーカの自爆」と呼ばれている。
市場が混乱したのは、予想外の政策が突然、打ち出されたことに対する当惑や、マイナス金利で収益の悪化する銀行の株が売られたことなども原因として考えられる。しかし最大の原因は「黒田総裁が何を考えているのか分からない」という不安だろう。
マイナス金利は銀行の経営を悪化させる
マイナス金利はそれほど新しい政策ではなく、2009年にスウェーデンの中央銀行が始め、2014年にECB(欧州中央銀行)が打ち出した。その狙いは通貨安にして景気をテコ入れし、デフレを脱却することだった。
これは前回のコラムでも書いたように、それほどおかしな政策ではない。世の中には、いまだに通貨供給量で物価が決まると考える人がいるが、現代の中央銀行の政策手段は金利である。金利がゼロ以上にも以下にもできるなら、それが理論的には正しい政策だ。
しかしプラスの金利はいくらでもつけることができるが、銀行が預金者に対してマイナスの金利をつけることは困難だ。昨年、スイスの銀行が大口預金の金利をマイナス3%にしたとき、預金者は怒って預金を引き出した。金融資産の半分以上が銀行預金である日本では、預金金利をマイナスにすると、取り付け騒ぎが起こりかねない。
だから黒田総裁が記者会見で「今後とも、経済・物価のリスク要因を点検し、必要な場合には躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じます」と述べたことが銀行の経営不安を招き、銀行株を下落させたのだ。
量的緩和には効果がないので追加緩和を打ち出しても影響はないが、金利をマイナス0.1%から(ヨーロッパのように)マイナス0.8%まで下げると、ゼロ金利の国債で運用している銀行は逆鞘になる。このため銀行は貸し出しを抑制し、景気を悪化させるおそれが強い。