産経新聞前ソウル支局長に無罪判決、韓国

韓国ソウルの裁判所に出廷する産経新聞の加藤達也前ソウル支局長(2015年12月17日撮影)〔AFPBB News

 「大山鳴動して鼠一匹」と言うが、産経新聞前ソウル支局長加藤達也氏の裁判が無罪で一件落着した。

 加藤コラムの基になった朝鮮日報の記者がそもそも何の咎も受けていない。それを引用し、韓国証券界の噂を加えて論評した支局長を名誉棄損で告訴すること自体に一貫性もなかったわけである。

 公判の焦点は言論の自由や報道の自由など、民主主義国家の根幹にかかわる問題であった。

 しかし、名誉棄損では、罪の成立に不可欠な大統領の被害感情が問われないままに終わり、またコラムが本当に問いたかった7時間の空白が何一つ解明されないまま終わる不完全燃焼となった。

 検察は「証言や携帯電話の記録から噂は虚偽」と主張したが、高校生多数を乗せたセウォル号の転覆事故という緊要時の大統領の所在と行動が国民に明示されなければ、300余人の犠牲者や家族の鎮魂にはならないであろう。

問われた韓国の法治

 加藤裁判で、韓国の検察は告訴要因の1つに大統領を誹謗する目的があったとし、それは「官邸への出入り禁止への報復を動機とした攻撃」であるとした。

 ここで「報復」という態様が出てくるが、これは韓国でこうしたことが容易に起きてきた状況から想起されたことのように思われる。

 全斗煥と盧泰愚両大統領はその後就任した金泳三大統領によって不正を暴かれ、牢屋に入れられた。また、盧武鉉大統領は日本人に協力した人物の財産を没収する法律を作った。

 このように、大統領は爾後法を作って過去を裁き、罪人を作って処罰してきた。国家の姿勢を正すという意味で行ったのであるが、民主化、民族主義、反日などと称される主義主張からくる報復のようにも思える。

 新大統領が悪を許さないとか自分の政治信条である、さらには国民との約束だと言えば格好はいいが、実態は近代国家にふさわしくない遡及法を作って平然とした国家であるということでもある。

 シンシアリー氏は『韓国人による恥韓論』で驚くべき韓国の法意識を紹介している。2011年に法律専門市民団体が全国の成人男女2937人に法意識に関するアンケートをした結果である。

 「韓国社会では法がちゃんと守られていると思いますか」という質問に対し、77%の人が「そうじゃない」と否定している。

 そして、42%の人が「法を守れば損をする」と答え、81%が「有銭無罪、無銭有罪」(お金があれば無罪となり、お金がなければ有罪になる)と答え、67%が「ポピュリズム的な、また不当な裁判結果が多い」と答えたそうである。