9月7日に起きた中国漁船と海上保安庁巡視船との「衝突事件」は、日中間の大きな外交問題に発展しつつある。この間の日中両国政府の動きを詳しく追っていたら、ふと、日中間で厳しい軋轢が生じた小泉純一郎政権時代のことを思い出した。
当時、筆者は在北京・日本大使館で広報を担当していたので、記憶は今も鮮明だ。今回は、誤解や批判を恐れず、こうした個人的体験に基づき、この事件を巡る日中当局間のやりとりを改めて検証してみたい。
日中外交について学んだこと
まずは、4年弱の北京在勤中、筆者が外交の現場で学んだ日中外交に関する教訓を5点挙げる。
「軟弱だ」「毅然としろ」といったお叱りを受けるかもしれないが、外交は生き物だ。何十冊の書籍による知識よりも、現場における「皮膚感覚」の方が真実に近いと筆者は今も信じている。
1. 日中関係は本質的に脆弱である
日中関係は意外に脆い。文化的な共通点こそ多いが、韓国とは異なり、政治的に共有できる価値観があまりないからだ。
海辺に作った「砂の城」のように、大波一つでそれまで築いてきた関係は一瞬に崩れる。このことを皮膚感覚で思い知ったのが北京の大使館時代だった。
評論家なら「けしからん」「砂の城など、なくてもいい」と書けばすむだろうが、現実はそれではすまない。
13億の中国人と1億3000万の日本人が互いに引っ越せない以上、政府レベルでは、たとえ「砂」であっても「城」を作り続けなければならない。
2. 日中外交の9割は内政問題である
日中関係では、一つ対応を誤れば国内の反対派が黙っていない。現政権に対する批判が瞬時に吹き出るという点でも両国はよく似ている。
日中外交のエネルギーの9割は、外交交渉ではなく、国内の潜在的反対者への「丁寧な説明」に注がれるといっても過言ではない。