中国北西部初の高速鉄道「蘭新線第二複線」、全線で開業

新疆ウイグル自治区のウルムチ南駅のプラットホームに止まっている、中国の高速鉄道、蘭新線第二複線の甘粛省蘭州行き列車(2014年12月26日)〔AFPBB News

 いま中国の習近平政権が世界に対して発展戦略として提唱している「一帯一路」とは、どのような政策であり、その狙いは何であろうか。また、それに対して関係国、特に利害関係の深い周辺国はどのように対応しようとしているのであろうか。

1 発展戦略としての一帯一路政策の形成とその狙い

 馮并著『"一帯一路": グローバルな発展のための中国の論理』(中国出版集団、2015年)によれば、初めて「一帯一路」の概念が提唱されたのは、2013年9月の習近平主席のカザフスタン訪問時である。

 習近平主席は、欧州とアジアを東西に連接し、シルクロードを創ることを提唱した。その協力内容として挙げられたのは、物流、貿易と投資、金融、エネルギー、食糧安全保障などの分野である。

 同年10月のインドネシア訪問時には、21世紀の海上のシルクロードの建設を提唱し、中国は「ASEAN(東南アジア諸国連合)と中国が協力し合い、緊密な運命共同体を建設すること」を望んでいるとして、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設を提唱している。

 2014年初めの欧州訪問時には、アジアと欧州の間で一大市場を建設することを目標として、人、企業、資金、技術の交流を深め、中国と欧州が世界経済の牽引役となることを提唱し、同年5月には、中国国内で中国対外友好協会に対し、陸と海のシルクロードの建設への協力を呼びかけている。

 このように、一帯一路は、表向きには、旅行、貿易、金融、エネルギー、食糧など、主に経済面での協力関係の強化が謳われている。前記の書では、その沿線の50カ国以上が参加に応じており、中国と沿線の諸国と地区がともに、共通の地政学的な経済的富裕の発展と、経済のグローバル化の推進に向けて、いまだかつてない重大な理論が創造されたとしている。

 また、経済のグローバル化と地域経済の一体化が新たな段階に入り、中国の発展も経済が典型的な新常態に入っており、一帯一路をめぐり、中国のすべての新たな視点に立つシルクロード発展戦略学が現れ始め、様々の国内外の発展戦略の中心的な戦略となったと、その意義を述べている。

 このように一帯一路が、今後の習近平体制下における発展戦略の基本となることが明示されている。

 中国国内では、一帯一路の重点地区について、いくつも候補が挙げられているが、最も重視されているのは、西部地区、なかでも新疆である。

 中国国内では2013年末に、国家発展改革委員会と外交部が共同で、シルクロード経済帯と21世紀の海上シルクロードについて、座談会を開催し、その戦略構想に含まれる重大な意義について分析検討した。

 その際には、西部の9省市と国家の12部門の責任者が出席し、戦略構想の全般計画と枠組みの制定などの推進について研究を進めるよう提議されている。このように、早くから西部の省市が、国家レベルの一帯一路の検討会に正式参加している。

 2014年には甘粛省と外交部が共同で、シルクロード共同事業についてのアジア共同フォーラムを開催し、2012年創設時の参加国33カ国のうち、28カ国が参加した。2014年6月には、「シルクロード国際帯検討会」が新疆のウルムチ市で開催された。

 その中では、新疆が持つ、欧亜を結ぶ陸橋の核心地帯、四大文明の交流点、豊富な資源、経済社会の発展の黄金期の利用という、4つの優位性を発揮して、新疆をシルクロード経済帯の地域内の、交通、商業物流、金融、文化と科学技術、医療サービスの中心とすることが提案されている。

 なお、この検討会には、中国、ロシア、インド、カザフスタン、キルギスタン、アフガニスタン、トルコ、米国など20カ国が参加した。このように、西部の中でも新疆が陸路の経済帯の戦略拠点として重視されており、ロシア、インド、中央アジア諸国との連携が呼びかけられている。

 中国国内の一帯一路研究拠点として、中国科学院は「海上シルクロード研究基地」を北京に設立している。その研究者の間では、以下のような見解が出されている。

(1)一帯一路の構築に当たっては、経済協力と人文交流を主とし、相互交流と貿易投資の促進を優先して、利益共同体にすることを目標とする。そのため、平等の協力関係のもと、順を追い漸進的に基礎を築き、沿線国とともに通商し、共に建設し、共に成果を分かち合い、共に勝利するべきである。

(2)アジアは複雑多様であり、各国が積極的に参加する貿易自由化と地区経済の一体化の建設のためには、新しい協力の方法を創造的に推進する必要がある。

(3)今後の一帯一路の建設には、「AIIB」という基盤の上に、アジア太平洋と欧州を相互に結合し、中国とシルクロード沿線国の積極的参加および欧亜の相互交流を推進し、海上の相互交通と汎アジア・エネルギー・ネットワークを構築する必要がある。

 そのため、中国の新たな工業化と農業現代化が形成する経済力を最大限に発揮し、対外開放戦略と沿線国家との隣接・拡散効果を拡大し、陸と海のシルクロードを共に建設するべきである。

 これらの見解からは、沿線国、周辺国の積極的参加を得るために、特に欧州を終着点とし、多様なアジア諸国を陸路と海路からネットワークで結んで、通商や物流を盛んにし、貿易の自由化、さらには地域の一体化を進めようとする、習近平政権の発展戦略の意図が垣間見られる。AIIBもその資金面での基盤と位置づけられている。

 しかし、関係国が中国の意図通りに動く保証はない。陸上国境を接する大陸国は互いに領土の争奪、少数民族問題などの紛争要因を抱えている場合が多く、国境を越えた開放的な通商や物流の拡大は円滑に進むとは思われない。

 特に、冷戦時代には厳しい敵対関係にあった旧ソ連圏のロシアや中央アジア諸国、また中国に領域を侵略され軍事的圧力を受けているインドや東南アジア諸国などが、対中警戒心を捨てることはないであろう。