社会人の間で経営学修士(MBA:Master of Business Administration)が話題にのぼることが増えてきている。新聞や雑誌など多くのメディアなどでも取り上げられており、実際に多くのビジネスパーソンが、その取得を目的に経営大学院の門をたたいている。

「グロービスに集まって来られる方とお話していると、順風満帆に見えるビジネスパーソンが、“今後の人生をどう生きていくべきか、どんな貢献をこの社会にしていくべきなのか”と、自らのキャリアを見直す人が年々増えていると感じます。自らの力で人生を切り拓いていくために、ビジネスの神髄を学び、さらなる成長を遂げたいと考えているのでしょう。」と、グロービス経営大学院の経営研究科長で、常務理事でもある田久保善彦氏は分析する。

グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長
常務理事 田久保 善彦 氏


現在、国内の数ある経営大学院で、最も多くの学生を集めているのがグロービスだ。

グロービスの設立は1992年。学長の堀義人が、道玄坂(渋谷)で開校したビジネススクールが母体だ。わずか20名のマーケティングのクラスから歴史を刻み始め、今や在校生1600名を超える日本最大の経営大学院へと成長した。開学以来、入学者数は年々増加しており、2015年度には前年の約600名から700人を超えるまでになった。年代は30代を中心に20代から50代までという幅広い年齢層の学生がグロービスで学んでいる。

多くの人を引きつける魅力は、いったいどこにあるのだろうか。その理由を探ると、徹底した社会人学生視点に基づく運営方針が浮かび上がってきた。
 

社会人が学びやすい数々の仕組みを用意

 “できるビジネスパーソン”は忙しい。仕事はもちろんプライベートでもさまざまな役割をこなしている。そのような中で大学院に通うのは容易なことではない。中にはMBA取得のために、仕事を休職したり退職したりするというケースも少なくない。仕事をしながら学ぶことには多くの困難が伴うのだ。

グロービスのキャンパスは全国5カ所(東京・大阪・名古屋・仙台・福岡)。首都圏だけでなく、地方に住むビジネスパーソンでも通える環境が用意されている。

もし、転勤や急な出張が入った場合でも、他のキャンパスで受講することができるのだ。「毎日20~30名ほどの学生が全国で振替受講しています。複数のキャンパスがあることで、フレキシビリティが高くなり、転勤はもちろん転職によって勤務地が変わってしまうことにも対応できます」と田久保氏は言う。

また、キャンパスへの通学が困難という人のために、今年からインターネットに接続できればどこででも受講可能となる「オンライMBAプログラム」を開講。こちらも順調に学生数を伸ばしているという。「当校のオンラインプログラムは、録画された映像をオンデマンドで見るのではなく、ライブ形式。教室での授業と同様に教員や学生が同時間に集まり、リアルタイムで議論する点が特徴です。出張中でも、もしくは海外赴任となっても受講を継続することが可能で、実際にシンガポールやアメリカ、メキシコなどから受講している学生もいます。授業後はシステムに接続したまま懇親会や勉強会も開催され、学生同士の絆も深まっています」と田久保氏は話す。

このオンラインMBAだが、産休や育休中のビジネスパーソンが利用するケースも増えているという。こうした時間を有効に使い、ビジネススキルを磨くことで、スムーズな業務復帰を狙っているのだという。ウーマノミクスや企業の女性活用が注目される中、このようなニーズは今後益々増えていくだろう。

 

「単科生制度」の利用を推奨することでミスマッチを防ぐ

 大学院に進学するリスクとして、入学したものの自分が望んだ内容と違う、忙しくて通学できない、といったミスマッチがある。このような問題は、学生本人だけではなく、クラスメートや学校、それぞれにとっても不幸なことだ。

このような「通ってみないとわからないリスク」を解消できるよう、グロービスでは本科生として入学する前に、基本科目を中心に1科目(3ヶ月)から受講できる「単科生制度」を利用することを推奨している。

この制度を利用すれば、授業内容や教員、成績評価など、本科生と全く変わらない環境で受講できるのだ。授業や教員、学生の質に満足できるか、仕事との両立は可能か、人的ネットワークは構築できそうか……といった気になる点を、入学前に自分の目で確認することができる。MBA取得検討者にとって、メリットの多い制度といえそうだ。
 

企業の発想で運営されるグロービス経営大学院

 グロービスでは、「実践的な経営力を養う」ために、ビジネスの最前線で生きた経営を体現している実務家教員をそろえている。その結果、授業にリアリティがあり実践的と学生から高い評価を受けているという。科目ごとに満足度を毎回調査しているが、すべての科目において5段階評価で平均4.6以上と高得点をマークしている。このアンケート評価を元に、一定の品質を保てないと判断された教員は、改善を経なければ再び教壇に立つことが許されないという。

これは、教員個人の能力や人間的魅力だけに頼るのではなく、大学院全体として授業のクオリティを担保し、学生満足度の向上に努めるという姿勢の現れだ。グロービスが、顧客満足度の追求は学校の継続的な発展に寄与するという、企業的な発想から生まれた学校であることの証左であろう。

田久保氏の授業風景


「人的ネットワークの構築」についても、グロービスならではの仕組みがある。

在学中、卒業後を問わず、学生同士が継続的に集い、学び、切磋琢磨できるように多くの仕組みを用意し、ネットワーク構築と継続の支援しているのだ。数々の仕組みの中でも特徴的なのは、全国の在校生・卒業生に加え、教員はもちろん経営者や政治家、研究者など各界のリーダーが集う合宿型のカンファレンスである「あすか会議」だ。参加者は総勢800名を超えるという。第一線を走るリーダーの考えや情熱に触れることで自らの志を磨き、多くの仲間と膝を突き合わせて語り合うことで、人的ネットワークを広げることを目的としている。

学生自身の努力に頼るのではなく、可能な限り仕組みに落とし込んで提供するというスタンスは、顧客満足度向上を柱とする企業的発想で学校を運営してきたからこそ生まれたものなのだろう。
 

「志の醸成」をカリキュラムに落とし込んでいる

 グロービスが最も重視するのが、学生それぞれの「志の醸成」だ。「グロービスはビジネススクールなのに“志の話を第一においている”と不思議がられることもあります。しかし、実現したい志がないのであれば、いったい何のために学ぶのでしょうか。私たちはMBAの取得が目的となっている人は受け入れません。学んだことが宝の持ち腐れとなってしまうからです。入試の際は、なぜグロービスで学ぶのか、人生をかけて何を成し遂げたいのかを重要視しています。だからこそ、カリキュラムにも反映させ、志の醸成に真剣に取り組んでいるのです」と田久保氏は言う。

「志」といわれても、抽象的で漠然としており、大意としては理解できるが、具体的なイメージを持てない人も多いかもしれない。しかし、グロービスでは、志が育まれるメカニズムを明らかにし、それを科目にまで落とし込んでいる。

実際にカリキュラムを見ると、「志系」と呼ばれるカテゴリーにある4科目の内、必修科目は3科目もある。「ここまで志の醸成にこだわっているビジネススクールは、世界中探してもグロービスだけでしょう」と田久保氏は語っている。 

志系科目「企業家リーダーシップ」のテキスト

 

グロービスで学ぶ学生たちは、経営理論を身に付けるとともに、「志」を磨き上げることで、自らの力で人生を切り拓くための力強い武器を手に入れることができるのだ。

<取材後記>

 田久保氏の取材で印象的だったのは、「グロービスでは、学生に対して人生で何を成し遂げたいのか?何のために学んでいるのか?を繰り返し問いかけている」という点だ。

「なぜそこにこだわるのか?」という質問に対して、田久保氏は「日本人はキャリアについて、きちんと考える時間を十分にとっていない」と指摘した。田久保氏の言うキャリアとは、昇進や転職のことではなく、人生そのもの。どの会社に就職するのか、より高い給料をもらえる企業はどこなのか……。これらは、人生のほんの一部のことでしかない。このことを突きつけられたとき、大きな衝撃を覚えた。
 

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