NHKは、いじめやすい企業である。品行方正な公共放送ということになっているので、職員が痴漢で逮捕されただけでニュースになる。最近、問題になっている「クローズアップ現代」の「やらせ」も、ワイドショーによくある「再現ドラマ」のやり過ぎで、民放なら話題にもならないだろう。
しかし4月15日に松戸簡易裁判所の出した判決は、NHKの経営を揺るがす可能性がある。それはNHK側が受信料の支払いを求めた被告(千葉県の男性)の「受信契約をしていないので受信料を払う義務はない」という主張を認めたからだ。
受信料制度は「契約自由の原則」に違反する
事件そのものは単純だ。被告が2003年にNHKと受信契約をしたので、未払いの受信料約18万円を払えとNHKが請求したのに対し、被告は「受信契約書はNHKの担当者が勝手につくったもので、受信契約は無効だ」と主張した。裁判所は被告の主張を認め、NHKの請求を棄却したのだ。
判決では、契約書の署名は男性やその妻の筆跡と異なると指摘し、NHKは集金担当者が書いたことを認めた。この判決は単なる契約書の偽造事件ではなく、視聴者の同意しない受信契約は無効だと裁判所が認めた点が重要だ。これは「契約自由の原則」という近代社会の根本原則で、双方が合意しないと契約は成立しないという当たり前の話だ。
ところが放送法では「協会[NHK]の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない」と定め、NHKを見ていない人にも受信契約を義務づけている。しかし受信料支払いの義務はなく、罰則もない。
この奇妙な制度が、契約自由の原則に反するという批判は強い。今までNHKは「テレビを買った時点で自動的に契約に同意したとみなす」と主張してきたが、今度の判決は契約書がないと受信契約が成立しないと判断したので、これからは集金人に「受信契約書を見せてください」といえばいい。契約書がなければ、受信料を払う義務はない。