静岡県の新品種いちご「きらぴ香」。静岡県農林技術研究所にて(筆者撮影、以下同)

 東の「女峰」、西の「とよのか」──1980年代、二強と言われていたのは、栃木県の女峰、福岡県のとよのか。90年代後半から2000年代にかけては、後継品種として栃木から「とちおとめ」、福岡から「あまおう」が続々と台頭し、静岡の「紅ほっぺ」が登場するなど、いつしか“いちご戦国時代”と呼ばれるようになった。

 そして、2014年。静岡県は、「紅ほっぺ」以来15年ぶりとなるいちごの新品種「きらぴ香」を市場に投入した。

 育成年月は実に17年にのぼり、28万株の中から選び抜かれたという。2014年末から試験出荷を開始し、東京の市場で限定発売されて以来、新たなブランドいちごとして大きな注目を集めている。これに先駆け、栃木県は「とちおとめ」の後継者として「スカイベリー」を2012年より市場に投入しており、今、いちご戦国時代が新たな局面を迎えている。

 静岡県は、2018年には県産いちごの80%をきらぴ香にする方針で、紅ほっぺからきらぴ香へと、大きく舵をきっている。県が威信をかけて開発したきらぴ香とはどんないちごなのか。そして、なぜきらぴ香の開発には、およそ人の子育てほどの年月を要したのだろうか。きらぴ香の「育ての親」である静岡県農林技術研究所 育種科上席研究員の河田智明さんを訪ねた。

県一丸で育んだ「きらぴ香」、その育種目標とは

 今年も食料品店には、様々なブランドいちごが並んでいる。2014年の農林統計では、収穫量、作付面積、産出額ではいずれも栃木県が首位。福岡県、熊本県に次ぎ、静岡県が位置付けている。「きらぴ香で、販売単価首位の『あまおう』に追いつき、追い越したい」と河田さんは話す。