「なんで、会社なんかに勤めるんだ、うっぃ!」
見も知らぬ酔っぱらいのおじさんが、僕にそう言うのです。
僕は、大学を4年で卒業できず一留。手当たり次第に受けた会社に落ち続けたあと、やっと内定をもらってほっとしていた時のことです。
京都の初めて入った料理屋で、1人で晩ご飯を食べていました。そこに、40才ぐらいのスーツ姿のおじさん、23才の僕にとっては、完全なおじさんがいて1人で日本酒を飲んでいました。
相当酔っ払っているらしいその男性が僕に話しかけてきました。
学生か、どこの大学の何学部の学生か、何回生か、就職は決まったのか、どこに決まったのか。
うるさいおじさんだな、と思いながらも、店主の女性もその様子をニコニコしながら見ておられたので、僕は生来の人当たりの良さで答えていました。そして、彼がその言葉を僕に投げつけたのです。
「なんで、会社なんかに勤めるんだ、うっぃ!」
「?」
「水産学科って、理系やろ、うっぃ! 研究者になったらええやないか。なんで、研究者にならんのや」
「いや、ろくに勉強、してませんから・・・」