経営力がまぶしい日本の市町村50選(36)

 長野県富士見町の小林一彦町長は元NEC出身。主に主力のコンピューター部門を歩み、専務として経営改革に辣腕を振るわれた方である。インタビューの冒頭では、様々なドラマがあったNECの経営についての昔話に花が咲いた。

 大企業の経営者が地方自治体のトップになるケースは珍しいが、おそらく日本全国広しといえども小林町長ほどITに詳しい首長はいないだろう。

 ただ詳しいだけではなく、人脈も半端ではない。その小林さんが町長になったのである。ITによる町おこしを考えるのは当然の成り行きと言える。

 IT関係の企業を誘致して効果を上げている地方自治体はいくつかあるが、これからは富士見町を見習うようになるかもしれない。では何をしようとしているのか。以下のインタビューをお読みいただきたい。

 なお、町長に就任するや財政健全化に真っ向から取り組んできた。その成果も既に大きく現れている。世界で勝負してきた企業経営者の経営力は地方自治でもいかんなく発揮されている。

新しい働き方を提案するテレワークタウン構想

小林一彦(こばやし・かずひこ)町長
長野県諏訪郡富士見町生まれ。東京大学工学部卒業後、日本電気(NEC)入社。同社コンピューター事業本部長、取締役執行役員専務、顧問を経て、2009年8月より現職で2期目。

川嶋 「地方創生」ということで国が盛んに旗を振っていますが、小林町長には具体的なプランがあるそうですね。

小林 何と言っても、まずは人口減少を食い止めない限り地方創生はあり得ない。

 昨年、計算したんです。富士見町には高校卒業生が毎年150人いて、そのうち町に残るのは50人。だから100人は大都市などに出て行く。

 日本の大きな問題として少子高齢化が言われているけれど、富士見町で生まれる子供の数は毎年約120人で、その数字はここ何年間も変わってない。

 それに、この町は移住してくる人も多いので、年間30人くらい増える。出生の120人プラス移住の30人で150人。ところが、亡くなる人が毎年約150人いる。それでプラスマイナスゼロですが、若者が100人減るから、人口は毎年100人減るわけ。

 それを何とかしなければいけないということで僕が考えたのが、「富士見町テレワークタウン」です。

川嶋 IT分野の企業や起業家を誘致しようということですね。

小林 日本は世界一流のITとネットワークの技術を持っている。特にネットワークは国が支援をして、無線の携帯網も光ケーブルも張り巡らせた。地方まで張り巡らせたけれど、その能力を十分につ使ってないんですよ。高速道路を整備してもあまりクルマが走っていないところがあるのと同じです。