経営力がまぶしい日本の市町村50選(32)

 秋田県藤里町が引きこもり対策で成果を上げている理由を前回お伝えした。地域の高齢者支援がひょんなことから引きこもり対策につながったユニークな事例であり、地域活性化につながる様々なヒントを私たちに与えてくれる。

 しかし、藤里町でこうした取り組みが偶然うまくいったわけではない。対策が成功した背景にあるものにも目を向ける必要がある。実は、藤里町は古くから独自に地域を活性化させるための様々な手を打ってきた。

 そうした挑戦の歴史があるからこそ、改革が実を結んでいるのである。ではどのような改革を続けてきたのか。藤里町の佐々木文明町長に聞いた。

日本中のゴルフ場開発ラッシュに背を向け、町の直営牧場を提案

佐々木文明町長

川嶋 佐々木町長は1975年(昭和50年)に藤里町の町役場に入られてから、農業委員会や国民年金の電算化などを経て、畜産振興のご担当になったと伺いました。それはいつごろのことですか。

佐々木 1987年ごろですからバブルの真っ最中ですね。大野岱放牧場という広さ約80ヘクタールの牧場があるんですが、異動の辞令をもらいにいったとき、町長からそこをゴルフ場にしたらどうかという話があると言われたんです。

川嶋 あのころは日本中でゴルフ場が造られていました。

佐々木 ただ、秋田の県北にあるこの町ではゴルフの需要はそんなにあるわけじゃない。だから私はゴルフ場案に難色を示して、直営畜産団地の構想を考えました。

 それまでは町が管理する牧場で農家の人たちが牛を放牧していましたが、単に管理するだけではなく、畜産事業を複合経営でやろうというアイデアです。それが上司の目に留まったらしくゴーサインが出て、サフォーク種の緬羊の飼育をすることになりました。

川嶋 どうして羊を?

佐々木 牛と違ってサイズが小さいので、女性や高齢の方でも扱いやすいですからね。しかし羊のことは何もわからないので、北海道の滝川市の畜産試験場に研修生を受け入れる制度があると聞いて、そこで学ぼうと。

 私は畜産技術員を派遣する計画を立てたんですが、忙しいからあんたが行けということになりまして。零下20度近くにもなる真冬の3週間、ちょうど羊のベビーラッシュの時期に勉強してきました。

 羊というのはお乳が2つしかないので、3頭生まれると1頭はあぶれてしまうんです。だから1頭しか生まれなかったところに付け子に出すわけですが、これにもコツがある。生まれたばかりの子にお母さんになる羊の胎盤で匂いをつけたりするんです。そんなことを学びました。