沿ドニエストル共和国が危機に陥っている。
沿ドニエストル共和国は、旧ソ連周縁に存在する非承認国家の1つであり、ウクライナとモルドバに挟まれる内陸国という不利な立地ながら、ロシアとの緊密な関係を維持して四半世紀にわたり存続してきた。
ロシア語話者が大多数を占めるモルドバのドニエストル川左岸地域は、ロシア政府が擁護すべき地政学的利害があると見なされており、国家承認こそ行わないものの、ロシア部隊駐留とロシアからの有形無形の経済支援によって支えられてきた。
その最大のパトロンであるロシアが、2015年に入り、突如として沿ドニエストル経済から引き揚げ始めたのだ。
1月30日、ロシア資本メタロインベストが同国最大の企業であるモルドバ冶金工場(MMZ)株を沿ドニエストル政府に返還し、沿ドニエストルの事業から撤退した。また、ロシア政府が慈善的に支給する年金も年明けから滞っている。2015年1月の対ロ輸出額は前年同期比マイナス70%でシェアは5%に急落した。
ウクライナ危機の影響を受け苦境にある沿ドニエストル政府は、年金や公務員給与の支払いにも事欠くほどであったが、ロシアの撤退で、さらなる経済悪化に拍車がかかることになる。
沿ドニエストル経済を支える「無料の」天然ガス
沿ドニエストル共和国が存続できた最大の理由は、「無料の」ロシア天然ガスである。
「非承認国家」という立場を利用して、沿ドニエストルはロシアから輸入する天然ガスの対価を支払わずに輸入し続けている。
このため、域内ガス販売価格は非常に安く、このガスを利用した発電、製鉄、建築資材(セメント)生産と輸出が沿ドニエストル経済の発展(と所有者の収益)に大いに貢献してきた。