12月中旬、米国の国際関係論における「攻撃的リアリズム(offensive realism)」の泰斗として名高いJ.ミアシャイマー(John J. Mearsheimer)教授(シカゴ大学)が日本を初訪問し、各地で講演をしつつ日本の有識者と意見交換の機会を持った。幸いにして筆者も教授と比較的長い時間、意見交換をする機会に恵まれた。
ミアシャイマー教授は、理論的見地に基づいて、米中が必然的に衝突するという見方を採っていることで著名である。教授は今年、中国と台湾に関する論争的な主張をさらに展開して世間の注目を集めた。そこで教授が唱えたのは、中国経済の高成長が今後も長い間続くとすれば、いずれ中国はアジアにおける地域覇権を実現し、米国の影響力はアジアから排除されてしまうだろう、という見方であった。
米国の一流の国際政治学者が唱えるこうした将来像は、台頭する中国に正面から直面する周辺諸国にとってはショッキングなものであった。特にミアシャイマー教授は米国がいずれ台湾を見捨てざるを得ない可能性について言及したため、台湾が見捨てられるのであれば、いずれ日本も同様の道をたどるのか、と彼の議論を聞いて不安に感じる日本人の有識者も多かったように思う。
しかし、筆者が教授と直に話してみて分かったことは、彼は必ずしも「米国はいずれ日本を含む地域の同盟国を必然的に見捨てるだろう」という主張をしているわけではない、ということである。むしろ、ミアシャイマー教授は日本に対しては中国がアジアで地域覇権を実現することを阻止するため、米国が強力に支援をすべきだとの考えを持っていることが明らかになった。
この点で、日本人は彼の議論をやや誤解している可能性がある。そこで本稿では、前篇、後篇の2回に分けて、ミアシャイマー教授本人との意見交換の結果に基づいて、彼の「攻撃的リアリズム」の議論が日本に対して持つ意味について考えてみたい。
前篇では、ミアシャイマー教授の「攻撃的リアリズム」の内容、教授が見通す今後のアジアにおける米中関係の将来について紹介する。後編では米国が果たして将来、日本を「見捨てる」ことはないのか、という疑問について扱うことにする。国際関係の理論家の議論なので、抽象的な概念が多くて理解に苦しむかもしれないが、最後には重要な政策上の含意を持つ議論なので、辛坊してお付き合いをいただきたい。
ミアシャイマー教授の「攻撃的リアリズム」とは何か
ミアシャイマー教授の中国を巡る議論に入る前に、まずは彼の「攻撃的リアリズム」とはどのような議論なのかを概観しておこう。