弾道ミサイル、巡航ミサイル等の中国の接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力の向上によって、我が国の南西諸島の防衛拠点が脆弱化する懸念が高まっている。

 この問題について考えるとき、参考になるのは我が国より距離的に中国に近く、またより切実に脆弱化の危機に晒されている台湾の状況である。とりわけ、中国沿岸部に張り付くように存在している金門島の事例は、たとえ敵対者のA2/AD能力の射程内に取り込まれたとしても、いかにして主権的統治を維持できるかの参考となるのではないか。

 そうした問題意識に基づき、6月末に金門島を訪れる機会があった。周知の通り、同島は中国沿岸部の厦門と眼前で相対する国境最前線の離島である。そこで本稿では金門島の歴史を題材としつつ、敵対者の脅威に晒される国境離島の防衛のあり方について考察したい。

台湾周辺の島々

なぜ金門島は台湾の領土のままなのか?

 金門島は馬祖島と並び、台湾が実効支配する中国沿岸部の離島である。島は大小2つに分かれており、小金門島はわずか6キロメートルほどを隔てて対岸の厦門に面している。大金門島にしても、中国の沿岸火砲の射程内に全島域が含まれる。

 これが中華民国(台湾)の領土だというのだから、事情を知らなければ少々驚いてもやむを得ない。どう考えても中台間には圧倒的な勢力の違いがあり、中国はその気になれば簡単に金門島など奪取できそうである。実際、かつて金門島は後述するように1949年、1954~55年、1958年と三度に渡って中国の武力攻撃の対象となってきた。