小渕優子経済産業相に続いて、松島みどり法相も辞任し、安倍内閣の危機が深まっている。第1次安倍内閣でも、政治資金について国会で追及された松岡利勝農水相が答弁に窮して「なんとか還元水を使っていた」などと答えた後、自殺したことが政権の大きなダメージになった。

 それよりも深刻なのは、経済の悪化だ。IMF(国際通貨基金)は今月、日本の成長率の見通しを大幅に下方修正し、今年から来年にかけて0.8~0.9%と予測した。これは民主党政権の時代を下回り、日本は不況に逆戻りだ。

景気悪化の原因は消費増税ではない

 これについて安倍首相は、「フィナンシャル・タイムズ」のインタビューで、今年中に消費税率を8%から10%に引き上げる決定を延期する可能性を示唆した。彼は「増税は次世代のための財源だ」と言いつつ、こう述べている。

 今がデフレを脱却するチャンスなので、これを逃すわけにはいかない。消費税を引き上げることによって、もし経済が軌道をはずれて減速したら、税収も増えなくなる。それではすべての[次世代のための]政策に意味がなくなる。

 

 このように消費税の影響を過大評価するのは、彼の側近のリフレ派経済学者の唱える誤った理論だ。

 第1に、今回の不況の原因は増税ではない。前回のコラムでも指摘したように、鉱工業生産指数は今年の1月から10%以上も低下しており、景気悪化は増税前から始まっている

 第2に、1997年に消費税率が3%から5%に上がった翌年からGDPが低下した最大の原因は、97年11月に始まった金融危機である。消費増税の影響は一時的なもので、税収が減ることはあり得ない(消費税収は増えている)。

 今回の景気悪化の最大の原因は、アベノミクスによるコストプッシュ・インフレと円安である。しかし安倍首相がアベノミクスの失敗を認めることは政治的に困難だから、消費税のせいにして増税を延期するおそれも強まってきた。